第36話 不安材料

 放課後、駅の近くにあるファミレスにグループ全員が揃っていた。

 八人掛けの席に何故か片方に俺と楓だけで、もう片方に他の全員が座っている。

 ぎゅうぎゅうに詰めても5人しか座れなかったので田口が隣の席から椅子を持ってきて強引に座っている。


「なんでこんな席順になってるんだ?」

「そりゃ決まってるだろ、お前達の事を聞く為だよ」


 中居がふんぞり返りながら答える。

 それに続いて他の皆も


「難攻不落の楓がどうして佐藤選んだか気になるもん」

「友也が新島とどう仲良くなったのか参考にしたいしな」

「佐藤君~、モテる秘訣教えてよ~」


 田口を除き皆どうして俺達が付き合い出したのか聞き出したいらしい。

 そして最初の質問が中居から発せられた。


「まず、告白したのは新島からでいいんだよな?」

「うん、今朝告白しました」


 律儀に答える楓。

 リア充って付き合い出したら事細かく報告しなきゃいけないの?


「新島の告白に佐藤はオーケーした。と」

「まぁ、そうかな」


 実際は俺からの告白に近かったけど、最初に言ったのは楓だしな。


「はいはーい質問ー! 楓は佐藤の事何時から好きだったの?」


 と元気よく及川が質問してくる。

 どう答えるのだろうと楓の方を見たら楓も俺の方を向いたので目が合った。

 楓は小さくコクンと頷いてから


「一年生の終わりごろからかな」


 その答えにまたしても皆が驚愕の声を漏らす。

 そして店員に注意を受ける。

 まだ驚きを隠しきれない及川はまだ少し高いボリュームで


「一年の終わりごろって、佐藤がまだぼっちだった時だよね?」


 及川の質問に中居や水樹も「確かにな」と頷いている。

 そんな俺の何処を好きになったのか疑問でしょうがないといった表情をしている。


「そうだね、いつも一人で居た」

「だよね! 見た目も今とは大分違うし、どうして?」


 楓は一度大きく深呼吸をしてから、朝俺に言った事を話した。

 つまり今までは自己顕示欲の為に猫を被っていた事もだ。

 楓の話を聞いた皆は、どう反応しようか迷っている様に見えた。

 だが、田口はいつもの調子で質問してくる。


「なら、今も猫被ってるって事なん?」


 恐らく皆が聞きたかった事を田口はお調子者というキャラの軽い感じで聞いてくる。

 これが空気を読んでの行動なら田口を見直すな。


「今は猫は被ってないよ。被る必要もないしね」

「でも、いつもとあんま変わんなくね?」

「そう…かな?」

「ただ今まで頑張って来た事を休憩するって事っしょ? なら何の問題もないっしょ。なぁ皆!」


 田口の言葉に皆が賛同する。

 田口って実はキレ者なのか?


「まぁ、新島は新島だな」

「まさか田口に諭されるなんてな」

「うんうん! 楓は今まで頑張り過ぎだったからこれで良かったのかも」

「そして今までの分のエネルギーを佐藤にぶつけるんだね!」


 皆今の楓を受け入れてくれたようだ。

 こいつら仲間想いの良い奴等だな。

 先日の誕プレの件といい。


 しかし、水瀬だけはいつも斜め上に解釈するな。

 と思っていたら


「そうなのよ南! 私実は凄い独占欲強くてさ」


 と言いながら俺の腕に抱き付き


「友也君に近づく女には容赦しないわ!」


 と怖い事を言った。

 あの、楓さん? それ初耳なんですが。

 楓の言葉を聞いて反応したのは水樹だった。


「まぁ友也に言い寄る女云々はともかく、その逆には気を付けないとな」

「ああ、そうだな」


 と水樹の言葉に中居も頷く。

 どういう事だ? 難攻不落の楓が付き合い出したからもしかしたら俺にもチャンスが! みたいな奴等が現れるって事だろうか。

 その俺の疑問を及川が代わりに水樹に聞く


「その逆に気を付けるってどういう意味?」

「単純な話、嫉妬だな。去年までイケてなかった友也に自分達のアイドルが奪われたんだからな。嫌がらせとかあるかもしれないって事」

「何それ! 佐藤は努力して此処まできたんじゃん。それに嫉妬とかありえない!」


 及川は納得いってない様だが、俺にはよく理解出来た。

 確かに今までぼっちだったが急に変わって憧れの女子と付き合い出したら物凄い嫉妬だろう。

 ヤバイ、怖くなってきた。

 すると中居が


「まぁ俺達のグループに居る訳だしそうそう滅多な事は出来ないだろ。っつーかさせねぇ」


 と誰かに睨みを利かせる様に言い

 それに続いて水樹と田口も


「だな。友也達は俺等が守ってやるよ」

「やっぱここは友情っしょ!」


 と男子組は心強い事を言ってくれた。

 こんなに他人から温かい言葉を貰ったのは初めてだ。

 あ、なんか涙出てきた。


「ちょっと佐藤何泣いてんの?」

「どうしたんだよ友也」

「俺今までこんなに優しくされた事無かったから感動して……」


 と正直に言うと


「もうお前は一人じゃねぇだろ。俺等がいるし、何より新島が居るだろうが」


 と中居に叱咤された。

 そうだよ! 今はこんなにも俺の事を思ってくれてる仲間がいる。

 それに楓だっているんだからしっかりしなきゃな。


「ああ、そうだよな。サンキュ中居」

「別に」


 俺がお礼を言うと中居は照れたようにそっぽ向いてしまった。

 俺は本当にいい仲間に出会えたな、と思っていたら


「とりあえずここはファミレスの中だからそろそろ離れたら?」


 と今までくっついていた楓に水樹が突っ込み

 そしてそのまま今日は解散となった。

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