第23話 天然

 玄関を入り新島の案内で二階の部屋へ向かう。

 所々にきっと高いであろう壺や絵画等の骨董品が飾られていた。

 だからついついこんな言葉が出てしまった。


「新島の家って金持ちなんだな」


 俺の言葉を受けて


「一般的にはそうね、ただ親が稼いでるってだけで私自身は大した事ないよ」


 と淡々と答えた。

 俺は振れてはいけない物に触れてしまったと感じ、部屋に着くまで黙っている事にした。

 柚希も調度品に目が行ったりしているが俺のようなヘマはしないようだ。

 それから少しして一つのドアの前で歩みを止めた。


「ここが私の部屋」


 と言い、ドアを開けて俺達を招き入れる。

 新島は「飲み物を持ってくるから適当に座ってて」と言い残し部屋を後にした。


 柚希以外の女子の部屋は初めてだが、あまり女子の部屋という雰囲気は無かった。

 必要最低限の物だけ揃えたという感じだろう。

 ただ一つ女子の部屋なんだなと思わせたのは何処からか香って来るいい匂いだった。


 しばらくして新島が戻り、俺と柚希に飲み物の入ったグラスを渡して新島も席に着いた。

 俺達は部屋の中央にある丸いテーブルを三人で囲むように座っている。

 三人が三人共顔が見える位置取りだ。


「今日は来てくれてありがとう」


 いつもの調子でお礼をいう新島


「こちらこそお邪魔します」


 と俺が言うと、柚希も


「今日はお招き有難うございます」


 と、こちらも普段通りに挨拶する。

 一通り挨拶を済ませた所で新島が声のトーンを落として、この会議の口火を切った。


「とりあえず何から話しましょうか?」


 と言い、俺と柚希を一瞥する。


「柚希ちゃんが来てるって事は友也君から全て聞いたと思っていいのかな?」

「はい。全て聞いた上で来ました」

「そう」


 短いやり取りの後、また少しの沈黙。

 そしてその沈黙を破ったのは再び新島だった。


「柚希ちゃんに聞きたいんだけど、今までどういった内容の事をさせてきたの?」


 その問に、柚希は春休みの特訓や新学期に入ってからの課題の事をはなした。


「なるほどね~。悪くないわね」


 と言いながら俺を見る。

 なんかさっきから会話に入れてないんですけど。


「でも学校が始まった今では柚希ちゃんのやり方には限界があるわね」

「はい。課題は出せてもサポートは出来ないので」


 この場に俺必要なのかな?


「ですから、新島先輩との協力関係は素直に嬉しいです」

「そう言って貰えるとこっちとしても助かるわ。でもいいのかな? 上手くいけば友也君は私と付き合う事になるけど」

「むしろありがたいです」

「ありがたい?」

「はい。二人が付き合う事になればお兄ちゃんは学校一の完璧美少女の彼女持ちになります。そうなれば必然的に妹である私の株も上がりますから」


 俺を置いてどんどん話が進んでいく。

 

「そう。ならよかった」

「ええ」


 二人してニコニコと笑っている。

 その笑顔が怖い。


「さっき言っていた課題の事だけど、昨日の課題はクリアできたの?友也君」


 と、ここでようやく俺に話題が振られた。


「ああ、一応水瀬の事をあだ名で呼ぶ事にはなった」


 と言うと柚希が


「それはどういう経緯でどんなあだ名で呼ぶ事になったの?」

「私も気になるわね」


 二人から尋問もとい質問があったので、小川留美の事も含めて全て話した。

 すると


「「はぁ」」


 二人同時に溜息を吐かれた。

 そんな変な事したかな? それとも手際が悪くて呆れられたのか?

 そんな事を考えていると新島が


「友也君って天然なの?」

「いえ、私も今知りました」


 いきなり俺が天然かどうかの話しになっている。

 今の話の何処に天然要素があったんだ!


「な、なんだよ天然って」


 と聞くと


「全然気づいてないみたいね」

「今時鈍感系は流行らないよお兄ちゃん」


 とあきれられてしまった。

 全く理解できない俺は少し語気を強めて言った。


「一体何の事だよ! 説明してくれ!」


 俺の言葉に


「水瀬さんはお兄ちゃんの事が好きなんだよ」

「は?」


 俺は新島に顔を向けると


「間違いなく惚れてるでしょうね」

「へぁ?」


 何を言ってるんだ二人とも。

 俺が水瀬に惚れられてるだって?


「いやいやいや! 騙されないぞ」


 と全力で否定するが


「なんなら今から電話して告白でもしてみれば? そうすれば初彼女ゲットよ」


 という言葉が帰ってきた。

 え? もしかしてマジなの?


「でもどうして? 俺は別に特別な事はしてないぞ?」


 と言うと再び二人から溜息を吐かれた。


「南は陸上部でのあだ名があまり好きではなかった。最初のあだ名が『ミナミナ』で、呼びづらいという理由で『ミナ』になった。嫌な理由は安直なあだ名だったから。でも友也君は『ミナミナ』の中に南って入っているだろ? と諭したわよね? その後、南は自分から『ミナミ』と呼んでと言ってきた。しかもそう呼んでいいのは友也君だけ。これだけ聞けば完全に惚れているとまで行かなくても異性として好意は持たれてる事は間違いないのよ」


 マジなのか? でもたったそれだけで俺に好意を寄せるなんてありえるのか?


「俺は別にそんな深い意味で言った訳じゃないし、勘違いって事も」


 と言った所で柚希が


「だから天然って言ったの! 天然ジゴロだってね!」


 なんという事でしょう。

 俺は知らない内に女の子を落としていたらしい。

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