4.魔王ファフニール
両足から発した
「なっ!?」
頭を足蹴にしたアーヴァの背後、別のアーヴァがそのアーヴァを踏み台にして飛び掛かってくる。いや、それだけじゃない。あらゆる方向から、一斉にアーヴァが飛び掛かってくる。その数20以上。どうやっても飛び立たせないつもりらしい。アーヴァの一人が俺の左腕にしがみつく。
「ロケットパンチ!!」
アーヴァにしがみつかれた左腕をパージ、付録のアーヴァごと、別のアーヴァにぶつける。
「ロケットキック! ロケットキック! 最後ロケットパンチ!」
右足、左足、残った右腕、と次々とまとわりついてくるアーヴァを打ち出しつつ、追いすがってくるアーヴァを蹴散らしながら上昇する。
「こ、怖い!」
大量のアーヴァはこちらに届かず次々と落下していく中、さらに多くのアーヴァがそれらを踏み台にしてこちらに迫ってくる。さらには背中にアーヴァを背負ったアーヴァがこちらに突っ込んできて、途中で背中のアーヴァがジャンプ! 背負っていたアーヴァを踏み台にし、背負われていたアーヴァがこちらに迫ってくる!
「お前はマ○オか!!」
長距離ジャンプ時にヨ○シーを踏み台にするアレだ。マ○オの頭を踏みつけ、俺も踏み台として利用させてもらいつつ上昇。どうやら奴らのジャンプ距離限界らしく、下からの追撃が収まる。
天井近くまで上昇した俺は、ゲートの形状を間近で改めて見渡す。ゲートは扉を外に跳ね上げる形で開く構造のようだ。跳ね上げの根本部分には、ゲートを押し上げるための巨大なギアと、それを駆動させるためのこれまた巨大な原動機が設置されている。
「もうちょい電力を上げても大丈夫かな──」
直後、背中に何かが衝突。
「なっ!」
背中にはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべたアーヴァがへばりついていた。アーヴァはそのまま
直後、さらに何かが体に衝突してくる。再びアーヴァが腰辺りにぶつかり、焦げて落下していく。周囲、天井に取り付けられたメンテナンス用の通路にアーヴァが犇めき、それらが通路から飛び出し、俺に向かって殺到してくる。
「くっ!!」
「っ!!」
アーヴァ達が原動機に向かい、そして駆動部ギアに飛び込んでいく。正視に堪えない状況を生み出しつつ、しかしギアに異物が混入することで展開に支障が出る。さらに電力を供給するも、異物のためにギアが駆動せず、ゲートの展開が全く進まなくなってしまった。
「まずいっ!」
ゲートの先、外の景色が見えつつあるが、その隙間はまだ1mほど。とても魔導艦が侵入できるスペースでは──
ガリッっという異音と共に、その1mの隙間に巨大な4本の指が差し込まれた。
「ウォォォォォォォォォッ!!!」
ゲート駆動部のギアがバキバキと損壊し、跳ね上げ式の扉が強制的に押し広げられる。扉の外、そこでゲートを強制的に開放したモノが、咆哮を挙げていた。
竜の意匠を残す人型、頭部は完全に竜のソレだ。体長は10m程で全身は漆黒の甲殻に覆われている。
「へ、変形してるっ!!」
魔導実験船ファフニールは、以前オメガが最後の最後で逃げ込んだ未完成のディヴァステータ、"ファフニール"をベースに建造したものだ。だから、戦闘形態ともいえる現在の"竜人形態"こそが本来の姿だ。"ファフニール"が未完成たる所以は、「AIが未実装」であるということだったが……、今はアッシュが入っているな……。
ファフニール、もといアッシュはゲートから内部に入り込み、ドーム内の中空に浮遊する。その背部に多数の砲台が展開され、曲射する光線が多量に発射され、アーヴァ達の頭上に降り注ぐ。
『今のうちに!』
レイヤーネット越しでアッシュの声が届く。その間にも発射され続ける曲射レーザーによりアーヴァ達が蹴散らされていく。
「レイン! 演算装置の位置を!!」
『パケットトレース……、ダメです、複数施設を経由されていて特定しきれません』
「全部だ! 全部表示してくれ!」
天井から見下ろす町並み、
「
俺は完全に自分と同じサイズの分身体を24に作り出し、自分を含めて25か所に向けて一斉に飛び立つ。
雨のように降り注ぐ光線を潜り抜け、飛び掛かってくるアーヴァを掻い潜り、赤く染まる建物、その窓を破り中へと突入する。
「アァァァァァァァァァァァッ!!!」
「レイン!!」
崩れ行く建物の中から、俺はレインに呼び掛ける。
『システム侵入、プロセスアクセス、デリート、システムオーバーライトします』
『アギャァァァァァァ……』
その瞬間、どこにいるかもわからないオメガの悲鳴が響いた……ような気がした。直後、俺は倒壊するビルに押しつぶされた。
「
俺は誰に向けた発言か分からない独り言をつぶやきつつ、建物のがれきから這い出した。
さっきまで元気いっぱい、磁石に吸い付く砂鉄であるかのような勢いで襲い掛かってきていたアーヴァ達は、糸の切れた人形のように地面に倒れていた。
『コースケ、聞こえますか?』
思念波通信でレインの声が届く。
「聞こえるぞ、どうした?」
『中央管制棟に拘束されている生存者を発見しました』
中央管制棟の半地下エリア。お世辞にも衛生的とは言えないエリアに、俺とレイン、そしてフィルトゥーラは脚を踏み入れた。魔導艦は建物の中に入れないため、外でお留守番だ。レインの視線情報で共有しといてくれ。
生存者10名。内8名は周辺集落から集められた人々の生き残りだった。周辺集落だけで数百以上の住民が居たらしいが、3か月ほど前から失踪者が相次いだらしい。失踪した住民たちは分解され、半有機義体の素材にされてしまったようだ。
なぜ3か月前から急にオメガがそのような暴挙に出たのか……。俺たちがこの大陸に来て約2か月、まさか俺たちが来たことが原因? とりあえずでオメガを潰して回るのは浅慮だったか!? 俺が一人悶々と自問していたところ、どうやら原因は俺たちではなかったらしい。その疑問の答えが、残り2名の生存者だった。
「俺たちは、に、逃げてきたんんだ……」
彼らの言葉によると、遥か西の山岳部に"空が落ち"、"地獄が広がった"ために逃げてきたのだそうだ。いまいち状況が分からない。仕方なくレインに彼らの思考及び記憶を精査してもらった。
「彼らには"システム・オメガ"の残滓、データが残っています」
レインのアクセスにより眠っている彼らの頭部に手を当てつつ、レインが告げる。
「何かわかるか?」
「……」
レインは表情をゆがめる。そして絞り出すように言葉を告げた。
「わかりました。彼らの情報が、おそらく今回の行動の原因です」
「なにかあったのか?」
俺の問いかけに、レインは静かに頷く。
「彼らに残るオメガの情報は、ここに居たモノとは別インスタンスです。トゥラヘレという街を本拠としています」
トゥラヘレ……、どこだ? よく考えたら、今いるこの場所の名前も知らないな。
「トゥラヘレにも縮退炉がありましたが、何かの攻撃によりトゥラヘレが崩壊、縮退炉も破壊されています」
「!!」
俺は驚きにより一瞬言葉を失う。と同時に、フィルトゥーラが全身を振るわせるほどにビクリと反応を示す。"縮退炉破壊"、それは二重の意味での驚きだ。
1つ目は、ここの施設でもわかるが、縮退炉はこれまで300年維持されてきただけあり、かなり厳重に護られている。確かに俺たちはこの施設を制圧したが、それは"レイン"というイレギュラーな存在があればこそだ。この施設を普通のマグナなどで攻めきれるとは思えない。
2つ目は、縮退炉を破壊した結果だ。今魔法が使えるのも、マグナを稼働できるのも、果ては俺の義体が動くのも、全ては縮退炉が存在し、レイヤーネットが存在するからだ。1基破壊されたからといって、全体に即影響が出るわけではないが、どんどん潰していったら、いずれはレイヤーネットが崩壊してしまう……。
縮退炉を破壊した何者か、彼らには、それらのデメリットを覆すようなメリットが存在したということだろうか……。縮退炉、ひいてはレイヤーネット破壊にメリットが無い……、わけでもない。モンスターそしてオメガも、レイヤーネットが無ければ存在できない。つまりレイヤーネットを破壊できれば、モンスターもオメガも根本的に全て根絶できることになる……。
縮退炉を襲う何者か、ここのオメガはそれを警戒し、異常な戦力増強を行ったということか……。
レイヤーネット破壊のメリット、縮退炉を破壊せしめる攻撃力、そして驚きだけとは思えないフィルトゥーラの異常な反応。そこに何かの繋がりがあるのではないか……。考えたくない嫌な想像を、俺は頭から追い出すことができなかった。
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