5.同郷との再会
「トゥラヘレにも縮退炉がありましたが、何かの攻撃によりトゥラヘレが崩壊、縮退炉も破壊されています」
「!!」
"縮退炉の破壊"、その言葉で私は自分の"任務"を思い出し、身が震えるのを抑えられませんでした。ここにも縮退炉がある、それを私は伝えなければいけません……。コースケさんから疑うような視線が向けられているような気がします。私はそれとなく深呼吸し、動揺を抑えます。
「オメガがこれほどに備えるほどの戦力なのか……?」
「正確にはわかりませんが……、"アーヴァ"に匹敵する戦力が数百と、オメガは分析しています」
数百……、"本隊"が動けば、もっとかもしれません……。
「"地獄が広がった"というのは?」
コースケさんはさらにレインさんに問いかけています。
「……。ここからはオメガの記録ではありません。が、彼らの記憶から推測すると、何かの方法によりレイヤーネットが遮断されたようです」
「遮断……?」
コースケさんは顔を顰め、どいうことか? という表情をしていますが、私にはわかりました。おそらくは重力隔壁を展開し、ディール粒子を遮断したのだと思います。
「その結果、遮断領域内の住民は死滅……」
「え、死滅!?」
レインさんから発せられた意外な言葉に、私は反応することを抑えることができませんでした。うぅ、コースケさんの視線がさらに厳しい物に変わっています。
「はい。私もレイヤーネット途絶という状況を未検証でしたので意外に感じましたが、現行人類はレイヤーネットが生存に深く関わっているようです。レイヤーネットが無い場合、生命維持ができなくなるようです」
情報精査に集中しているレインさんは、私の反応を気にすることなく詳細を話してくれました。私は震える体を抑えるだけで必死でした。私が"任務"を果たし"縮退炉の破壊"が進めば、王都で会ったいろいろな人たちが、これまでの街に住んでいた人たちが、みんな死んでしまう……。
「彼らはギリギリ難を逃れ、この地へ逃げ延びてきたところを、この施設のオメガに捕縛されたようです」
その後、何の話をしたのか……。私は自身の動揺を抑えるので精一杯でした……。
私は施設から外に出て、日が沈みつつある空を眺めました。夕日は黒い山を照らし、山の影が長く伸びています。
「そういえば、"防衛要塞アーク"と言っていましたね……」
あまり話の内容は覚えがないですが、この施設が"防衛要塞アーク"と言う名前だ、ということだけは覚えていました。たぶん縮退炉を防衛するための要塞なのでしょう……。
「連絡、しないと、いけないですよね……」
瞬間、レインさんの発した「死滅」という言葉が脳裏に浮かびます。元々本命ではない"任務"でした。その上そんな事実まで知ってしまっては……。
「あら、連絡しないのかしら?」
「っ!!」
木の影から強化拡張外骨格、"エグゾスーツ"を纏った人物が姿を現しました。
「その声は、エムルス・リョクショーチ……」
「久しぶりね、フィルトゥーラ・ミオタイカ」
ツルリとしたフェイスカバーの遮光色が薄れ、ガラス状になり中が見えるようになりました。私が以前から良く知る女性、金髪碧眼の美女"エムルス・リョクショーチ"がそこには居ました。
「こんなところで何をしているのかしらね? あまりに連絡も寄こしてこないってことで、私が様子見で派遣されちゃったわ」
エムルスは両手を腰に当て、私を見下ろすように告げます。長身の彼女はこういった姿も様になります。なりますが、見下ろされるこっちは良い気持ちはしません。
「調査任務は、遂行中です……」
私は自然と睨み上げるような恰好になりつつ言葉を絞り出しました。
「ふぅん、てっきり"現地人"と慣れ合って、任務を忘れてるのかと思ったわ」
「そんなことは、ありません」
私は努めて平静を装い、言葉を返しました。
「なら、早く連絡したら? だって、ここにもあるんでしょ? 縮・退・炉♪ 私はもう2か所も潰したのよ?」
エムルスのとても嬉しそうな言い方に、私は苛立ちが隠せませんでした。
「縮退炉を無くしてしまえば、今ここに暮らしている人たちが生きられない……」
「そういう任務よ?」
「いくら"帰還"のためとはいえ……、暮らしている人たちを殺してしまうなんて、おかしいのですっ!!」
「はぁ? 何言ってるの? 偽物を駆除して"正しい人類"が、地球を取り戻すだけじゃない」
「彼らも生きているんです!!」
私は爆発する自分の気持ちが抑えられませんでした。直後、目の前からエムルスが消えます。
「まあ、いいわ」
エムルスの声がすぐ横から聞こえてきました。咄嗟に両手でガード、その上からまるで巨大なハンマーで叩かれたような衝撃と共に吹き飛ばされます。
「あなたはもう要らない。終わらせてあげるわ」
「簡単にはいきませんよ!!」
私は空中で重力場を展開し足場を形成、それを蹴ってエムルスへ向かいます。
「どうかしらね」
私を迎え撃つように、エムルスが右手を引いて構えます。私は衝突直前に地面に重力を叩きつけ、自分の体を打ち上げます。上昇した体の下をエムルスの攻撃が通過、彼女の背後に落下しつつ右回し蹴りを頭部へ打ち込みます。
カギンという硬質な衝突音。私の蹴りは彼女の左手により止められました……。
「?」
何かエムルスの関節の動きがおかしいような──
直後、そのまま右足を掴まれ引っ張られます。そのまま地面へと──
衝突直前に重力を反転。浮き上がりながら体を回転させ、足を掴んだ手の拘束から逃れます。
下方向へ重力を強めて一気に着地、強めた重力で体を固定、力は足から体を伝って右腕へ、未だに左手を振り上げたままのエムルスへ右腕を叩きこみます。衝突の瞬間、体を支える重力を一瞬強め、右腕進行方向にも横方向の重力を生み出して威力を底上げします。
重撃格闘 重崩撃
金属同士の激しい衝突音と共に、エムルスの体がくの字に曲がったまま20m程滑っていきます。
「くぁっ、や、やるわね……、さすが"重撃姫"──」
「私をその名で呼ばないでください」
私は自身にかかる重量を下げ、背後から前に向かう重力を発生させて突撃します。
「でも、結局その程度よね」
再び唐突にエムルスの姿が消えます。
「
背後からエムルスの声、直後、脇腹に凄まじい衝撃と共に景色が横方向に急速移動していきます。
「数秒間超高速稼働ができるの、戦闘用エグゾスーツの機能よ」
エムルスの自慢気な言葉を、私は地面を転がりながら聞きました。何とか地に足をつけ、体を起こします。
「ぐっ」
脇腹にかなりのダメージが入ったのか、ギリギリと痛みます。
「そんな暇、無いわよ」
目の前にエムルスの顔がありました。その目は狂気に染まっています。直後、右頬に衝撃、視界がぐるぐると回り、止まった時には、薄暗い、暮れつつある空を見上げていました。
私は何とか体を起こしましたが、すでに体中に力が入りません。
「さぁ、終わりね」
エムルスの手が、私の首に添えられています。あぁ、こんなところで……、ごめんなさい、お父さん……。
ぎしっ
何かが軋む音がすぐ近くからしました。私は目を開き顔を上げました。
「お、おまえは……」
「再会を懐かしむ……、っていう雰囲気じゃないな」
「コースケ、さん」
コースケさんがエムルスの右手を握りつぶす勢いで掴んでいました。
「ぐぐぐ……、チッ!」
しばし力で抗おうとしたエムルスですが、それが敵わないとわかると強引に振りほどき、私たちから距離を取りました。
「ふん、まぁ、いいわ。ここの情報は既に"本部"に知れている。せいぜい抗うがいいわ!!」
そう吐き捨てるように告げ、エムルスは浮かびあがり、東へと飛び去って行きました。
「……大丈夫か?」
そう言いながら、コースケさんは私に手を差し出します。
「私のこと、怪しいって思ってますよね……」
「あー、まぁ、気になることは多いかな。さっきの奴との関係とか、縮退炉のこととか……」
敢えて明るい調子でコースケさんは言います。
「でも、フィルトゥーラ自身は俺たちに危害を加えてこないし、むしろ協力してくれるしな……。怪しいところはあるけど……、信頼はしているつもりだ」
「私のこと、話します、全部……」
私は懺悔するようにコースケさんに告げました。なぜか視界がぼやけ、頬に熱いものが流れます。
「お、おい、俺が泣かせたみたいじゃないか! アッシュに見せるな!? 俺殺される!!」
焦るコースケさんの姿に、ちょっと心の中で少し笑ってしまったのは秘密です。本当は今話したいところですが、急がなくてはいけません。
「今は急がないと……、彼らの狙いは縮退炉なのです……、要塞が狙われます!」
「えっと、あれだけの要塞だし、俺たちも居るし、そんなに簡単には……」
「違うのです、拠点防衛とか、そんなもの関係のない兵器があるのです……」
私の必死な様子に、一瞬たじろいだコースケさんは、一瞬逡巡し……、
「じゃあ、アレ使うか。」
「アレ?」
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