3.魔獣を討伐しよう
『魔竜王を倒すためには、良いスキルを手に入れて、強い魔獣素材の装備を揃えるのさー!!』
「その強い魔獣を倒さないと、素材は手に入らないんでしょ?」
『そうだよ!! だから、強い魔獣を倒すためには、良いスキルを手に入れて、ちょっと強い魔獣素材の装備を揃えるのさー!!』
「次は、ちょっと強い魔獣か」
『そうだよ!! だから、ちょっと強い魔獣を倒すためには、良いスキルを手に入れて、魔獣素材の装備を揃えるのさー!!』
「やっとただの魔獣になった」
『そうだよ!! だから、魔獣を楽に倒せるように、良いスキルを手に入れなきゃ!!』
徐々に弱体化した結果、装備の文言が消えた。
「つまり、最初はスキルを探しに行くってこと?」
『装備も大事だよ?』
「どっちも大事なのはわかったよっ!!」
僕は最初の目標を確認したかっただけなのだが、クスタが一般論で返してきた。結局どっちから優先すべきなのか……。
「坊主……、アーヴァは魔竜王を倒そうってのか?」
カウンターの向こう側から、心配顔のバッシュが声をかけてきた。
「だが、そうか。複数のスキルが使えて妖精持ち、アーヴァならもしかしたら、もしかするかもしれねぇなぁ。」
バッシュは「そうかそうか、俺は歴史的一瞬ってやつに立ち会ったのかね」と感慨深げだ。そんなことより、要領を得ないクスタの説明をどうにかしてほしい。
「そこの妖精の嬢ちゃんが言いたいのは、こういうこったぜ。」
バッシュはそう言いながら、メモ用紙のような物を取り出し、さらさらと何かを書く。
魔獣 -> 亜竜種 -> 竜種 -> 魔竜
「魔竜王は"魔竜"っていう種類だと言われてる。魔竜も竜種の一種ではあるんだが、中でも飛びぬけて強力だ。だから、魔竜を倒すためには、竜種由来の装備が要るだろうな」
バッシュは自分が書いた相関図の魔竜と竜種を指さしながら説明する。さらにその指は亜竜種に向け移動し、
「竜種も軒並み頑丈だ。それを倒すためには、亜竜種の装備が必要。さらに亜竜種を倒すためには魔獣の装備、とまあ、単純に言えばこんな感じだな。」
最後、魔獣のところまで進んだ指をトントンとたたきつつ、バッシュは更につづけた。
「だが、妖精の嬢ちゃんが言うことももっともだ。装備かスキルのどちらが大事かといわれりゃ、そりゃ"両方"だ。だから、素材もスキルもいい物が手に入る魔獣を紹介してやるぜ。」
バッシュはカウンターの下から紙束を取り出し、ペラペラとめくっていく。どうやら魔獣の生息情報をまとめた束らしい。
「こいつだ。」
その紙には"鬼猿"という魔獣が記載されていた。絵姿も描かれているが、角が生えていること以外はほぼゴリラだ。
「こいつが落とす角や牙は良い武器の材料になるし、毛皮は固くて頑丈だ。さらに"
おお、一石二鳥だ。
「でもお強いんでしょう?」
「まあ、それなり以上にはな……、っておい、すごい顔するなよ。」
多分僕は相当ゲンナリした顔をしていたと思う。
「それなら、まずはお前さんが持ってる、その素材を集めたらどうだ?」
そう言うなり、バッシュは僕の脇を指さした。僕はその指につられて視線を落とす。
そうだ、思い出した。ここに来る途中に倒した鬼ウサギ、その角と毛皮を小脇に抱えて持っていたのだった。
「そりゃ鬼ウサギだよな。その角で短剣を作って、毛皮で防具を作れば、ちったぁマシになるんじゃねぇか? まあ、もう少し"量"が要りそうだがな。」
ラインフォートからしばし、森の浅い部分で僕らは再び鬼ウサギと相対した。目の前にしてみると当然のように恐怖が先に立つ。いくらデカいとはいえ、しょせんはウサギだ。そいつを遠巻きに見つけた時「2度目だし、割と楽に戦えるかな?」とか思っていた自分を殴りたい。自分より小さな相手とはいえ、正面から殺意を向けられ身が竦む。
僕の心が準備を整えるより早く、ウサギは動き出した。ウサギはその角の先端を僕に向け、一直線に突撃してくる。
『スキル使って!
「え、す、
目前まで迫っていた鬼ウサギの角は、その速度を急激に落とした。いや、違う。相手の速度が落ちたのではなく、僕のスピードが上がったんだ。
目に見える変化に、僕は少し落ち着きを取り戻した。冷静にウサギの突撃をかわし、通り過ぎるウサギに向け短剣を這わせる。ウサギが通過する勢いで短剣はその皮と肉を切り裂いていく。
「ぎゃわぎゃわ」
緩やかだった時間が戻り、通常速度でウサギがのたうち回る。その様に一瞬悲哀は感じたが、僕はとどめを刺した。ウサギは消え、角毛皮が残された。
『すごいすごいっ! この調子でガンガンいってみよー!!』
ガンガンいこうぜって「めいれい」じゃないんだから……。僕自身、割と躊躇なく止めを刺したことに戸惑っている。環境に順応しているって前向きに捉えておけば良いだろうか……。
鬼ウサギが持つスキルをドレインしたことで、鬼ウサギを容易に倒せるようになるっていうのは皮肉な話だなぁ。そのようなことを思いつつも、その後も
『あー、それはとげ虫だねー』
体長30cmでとげだらけの芋虫。嫌いな人が見たら卒倒しそうなデザインだが、のそのそと木の幹を這っている。一応モンスターらしいが、動きが遅いため特に脅威ではなく、だが、ドロップ品も無いためにあまり率先して狩るソルジャーも居ないらしいのだが、
『こいつからは
こんなモンスターだが、ドレインできるスキルがかなり有用であるらしい。そのため、モンスターの中では非常に稀だが"生け捕り"してギルドに持っていくと、買い取ってもらえるらしい。1級ソルジャーの中には、非常用として瓶詰の生きたとげ虫を常時携帯している者もいるとか……。
【スキル:
【所持スキル
1.
2.
3.
「おおー、これは気持ち悪い!!」
腕に負った擦り傷に向け
『えぇー、回復だよ? 怪我直るんだから、気持ちよくない?』
もとよりこの世界の住人であるクスタにはわからない感覚らしい。こんな速度で傷が塞がるのは、見ていて不気味だ。
「スキルも手に入ったし、あとはウサギをもう1匹くらい狩ってから一旦帰りますか──」
木々の隙間、とげ虫に塗れた人間が倒れていた。
「うわぁ……」
うつ伏せに倒れており、顔が見えない。腰丈ほどの長さのフード付き外套を着こんでいるため、生きているのか、死んでいるのかも良くわからない。なにより、とげ虫に這いまわられすぎて、粘液まみれでベットベトだ。遠巻きに見た限り、背丈や体格、見えている下半身の雰囲気からすると、どうやら女のようだ。女が身に着けるにしては、厳つい篭手と具足を身に着けているが……。
『えぇ、なにこいつ……』
珍しくクスタが戸惑うような声を出している。
うむ、一応生死は確認したほうがいいかなぁ、ベットベト過ぎて正直近づきたくない……。
──ぐぅぅ
『えっ! このタイミングでお腹鳴らす!? まさかとげ虫食べるの!? はっ! まさかあの女を!?』
「どっちも食べないよ!! 腹鳴らしたのは僕じゃないって!!」
僕とクスタは顔を見合わせた後、倒れている女に目を向ける。
「やっぱ連れて帰る、べきか……」
クスタは「どうぞどうぞ」と言いたげな仕草を俺に向けてくる。このベットベトを僕が担ぐしかないのか……。
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