3.遭遇
山岳の斜面に立ち並ぶ家々、その最上段。街灯に照らされた王城が目の前にある。夜間で全容は視認できないが、その荘厳さは十分に感じることができた。
「あの街灯、どういう構造なのか気になる……。」
光に揺らぎが無いため、何かの燃焼ではないようだ。それ以外の発行体を使用しているのか……? エネルギー源はなんだろうか……、ぜひとも分解して──、
「壊したらダメよ。」
エリーゼに先手を封じられた。エリーゼはレミエルのコックピットから体を乗り出し、斜面から下の王都を眺めている。その向こう側には、同じくマグナのコックピットから身を乗り出し、泰然と構えるアルバートが見える。
ここは、王城前の広場だ。時折王族がここで国民を集めてのセレモニーなどを行うことがあるらしい。俺たちは、ここで待っていた。
「ただ"待つ"ってのも、なかなかもどかしいな。」
「夜間にマグナでの巡回は騒音の問題があるだろうというエリーゼ様のご配慮だ!
その話は既に3回ほど聞いた。よほど自分ところの隊長自慢をしたいらしい……。いや、ヨイショしてるだけか。
「憲兵たちには脚で捜査させて、コトが起こったら私たちが駆けつける……、というのも、手柄を横取りするみたいで、少々心苦しいものだけどね。」
当のエリーゼは、このスタイルに申し訳なさを感じているらしい。
俺はアルバートに"どうだ?"といった視線を送ったが、奴はこちらと目線を合わせようとはしなかった。むぅ、負けず嫌いな奴だ。
そのとき、王都に甲高い音の警報笛が鳴り響く。
「報せよ!!」
エリーゼが素早くコックピットに飛び込む。
「ほら! 俺のアリバイが成立したぞ!!」
「それはまだわからんな。」
俺の揚々とした言葉に、アルバートは冷や水を浴びせつつコックピット内に消えていく。
「言ってろ! 俺は先に行く!!」
フルフェイスを閉じて両手両足のフィールド発生器を起動、一気に加速して上昇する。両足で空を滑りつつ、両手を推進器にして王都の空を飛翔する。
そこには一般人男性らしき人物を護るように3人の金属鎧を着こんだ男。彼らは憲兵隊だ、が、既に2名は地に伏している。残った1人が一般人男性を庇うように立っている。
その視線の先には、全身黒い外殻で覆われた小柄な人物が立っていた。
俺は残った1人の憲兵隊を庇う位置へと落下、三点着地で落着した。衝撃と共に、石畳にヒビが入ったが……、気にしてはいけないな。
俺は立ち上がりつつ、先の人物を見据える。確かに全身覆う黒い外殻は色だけ見れば俺と似通って見えないこともない……、が、俺のパワードアーマーとは違い、相手の外殻には波紋のような細かい模様が入っており、どちらかと言えばモンスターの外殻と同様に見える。更には顔面は般若のような表情を形成している。あれこそ怪人だ。
「全然俺と似てないじゃないか。」
「ガルゥ!!」
「速い!?」
黒い怪人は獣のような吠え声を放ちつつ、予想以上の速度で飛びかかってくる……、と見せかけ、直前で軌道を変え、俺を避けて背後の憲兵隊員へと迫る!
「させないっ!」
俺も即座に追いつき、憲兵隊員に向けて振るおうとした右手の手首を掴む。
右手の五指からは獣のような鋭利な爪が伸びている。本当にモンスターみたいだな。
「とりあえず捕縛だな。」
相手の腕を掴んでいるのとは逆の手で
「ガァァァァァ!!!」
黒い怪人は口から衝撃波を発する。衝突する空気の塊が全身を打ちつける。
「ぐっ!」
【Willact Field Detected ...】
遅れて
気が付くと、俺の手には外殻の一部が残されているだけだった。
「脱皮かよ!」
【Willact Field Detected ...】
再び警告。
「ガォォォォォォォォォン!!」
警告が示した方向、石畳に片膝を突くような姿で黒い怪人は咆哮を上げた。その叫びには
気が付くと、外殻が剥がれ負傷したはずの右腕が回復している。
「……、厄介だな。」
『そこまでよ!!』
立ち並ぶ家屋を飛び越え、赤いマントを翻してレミエルが姿を現す。
俺とレミエルに挟まれる形となった奴は、不利を悟ったらしく警戒を露わにしている。俺とレミエルを見据えつつ退路を探しているようだ。
『だが逃さん!!』
アルバートのマグナが屋根を飛び越えて姿を現す。そのまま黒い怪人に向けてシールドバッシュを──、放った先には何も居なかった。
『何だと──、』
「ガルァ!!」
アルバートが駆るマグナの反応を、圧倒的に上回る速度で黒い影が駆け抜ける。
『ぐあぁぁぁぁ』
黒い怪人を見失ったマグナは、瞬く間に解体され、両手が切り落とされていた。
部品をまき散らしながらマグナが落下する。
『な、なんで、私ばかりがこんな目にぃ……』
漏れるのが止められなかったであろう、アルバートの愚痴が思念に伝わる。両腕を失ったマグナは石畳に落下した。
『ルクト!!』
アルバートを撃破した黒い怪人は、そのまま逃走を始めていた。俺はエリーゼの声を聴くより先に、奴に向けて突撃していた。
フィールド発生器を起動、黒い怪人に向けて
「2人目だと!?」
俺の攻撃を遮ったのは、もう1人の怪人だった。この1人は少々特徴的だった。外殻の様子は同じだが、ボディラインが明らかに女性的だ。
「ハヤクッ!!」
「ガァ!」
女性型の声を受け、男性型は戸惑いつつも逃げ去っていく。
『逃がさないわ!』
「ゴルァァ!!」
逃げる男性型を追いかけたレミエルの横腹を、女性型が強打する。
【Willact Field Detected ...】
屋根に付けた足がめり込み、屋根を半ば崩壊させる! 衝突の爆音を轟かせ、レミエルが横に吹き飛んでいく。
『ぅああぁぁぁっ!!』
残響の思念を漏らしつつ、レミエルが吹き飛んでいく。あの重量さを覆して押し飛ばすとは……。攻撃が命中する瞬間に
「恐ろしい威力だな。だが!!」
屋根にいる女性型の足元、半壊状態の屋根材に向けて
俺を空を蹴り、
接触の直前、女性型の頭部外殻が爆散する。
「くっ!」
あの外殻は意図的に爆発分離できるのか!!
一瞬、女性型怪人の素顔が覗く。
「えっ……?」
次の瞬間、女性型の全身外殻が爆散、周囲には大量の白煙が広がる。
白煙が晴れた後、すでに怪人の姿はそこには無かった。
『殺人事件の犯人は複数犯だったのね、でも、様子が変だったわね……。』
腹部外殻が大きくへこんだレミエルが近づいてくる。だが、俺は別のことが気になっていた。
「今のは、あの時の?」
『まさか知り合い?』
エリーゼが探るように俺に尋ねる。
「いや、知り合いというほどでは……。」
俺はざっと経緯をエリーゼに話した。
女性型の素顔、それは先日引ったくり犯を捕まえた女性だった。
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