2.多段式魔導加速銃《スコルペンドラ》
「わかった。どうやら魔力は扱えるが、コントロールがさっぱりなのだな! にもかかわらず、"
アルバートが独り言をつぶやき、納得している。レインは「心外な」と言いたげな表情だ。
レインの気持ちはわかる。実は俺も魔法を試したところ、レイン程ではないが暴発した。
俺やレインが行っている
幻想魔法なんてその最たるものだ。思念波にイメージを乗せて相手に炎を見せたり、苦痛を伝えることで暗示効果によってダメージを与えるという技術だが、効き目や威力には個人差が大きく、更にある程度知性のある相手でなければ効果がない。
更に俺たちに向けて幻想魔法を使われた場合、思念波に伝達される情報はフィルタリングがかかり通常感覚とは別で処理されるため、まったく効果が無い。まさにテレビの向こう側で燃えている火を見ている状態だ。
イメージを持つだけで発動できるため、使うのが容易な技能なのかもしれないが……。
思考が逸れた。
なにやら納得した風なアルバートは、俺とレインを引き連れて倉庫の一番奥へとやってきた。そこには白い布が掛けられた物体が置かれている。
アルバートが布を取る。
「これは、とある事情により近衛兵団で製造した兵器の試作品だ。」
そこには140cmはありそうな大型の銃が置かれていた。俺も詳しくは知らないが、対物ライフルってこのくらい大きいんだったか。
俺の知る銃と特に違う点を挙げるなら、やや太い銃身には枝断ちした跡のような出っ張りがいくつも付いていることだろうか。
「
ルクトの記憶によると、この世界にも火薬式の銃がある。ただ、硝石などの素材が希少であるため、魔法技術による着火方式である"魔導式"の銃が一般的のようだ。
しかしながら、銃が使われることはあまりない。なぜなら、人類の敵は主に"モンスター"であり、遠距離から攻撃ができるがモンスターの外殻を貫くほどの威力が出せない。仮に貫通できても、点での損傷はモンスター相手には有効打となりづらい。という事情があるらしい。
俺の知る機関銃のような連射性や、対物ライフルのような貫通性があればまた違うのだろうが、単発式で威力もそこまで高くないということで、対モンスターには専ら魔法もしくは近接武器を使う、でなければマグナほどの大型兵器を用いるようだ。
「私たちはムカデと呼んでいる。何度も加速を行うことで普通の魔導銃に比べて数倍から数十倍の速度で弾丸を打ち出すことができる。」
ほぅ、ということは、銃身に付いている出っ張りがそのための仕組みということだろうか。
「複雑な操作は不要だ。魔力を使った多段加速は、機構で勝手に行ってくれる。弾丸を装填し、引き金を引くだけなんだが……、」
アルバートは一旦そこで言葉を切る。どうやら欠点があるらしい。いやまあ、だからこそ倉庫の奥に仕舞い込まれていたのだろう……。
「魔力をバカ食いするのだ。普通の魔法使いでも1発撃つと魔力欠乏で失神する程だ。」
それじゃ誰も使えないな。確かに魔力出力というか
「なので、お前に丁度良いのではないかと思ってな。ただこの大きさだ、取り回しには台車などを着け──、」
ガタンっ、
アルバートの説明が終わる前に、レインが
「──、る必要はなさそうだな。」
本日何度目だろうか、アルバートは半分魂が抜けたような表情だ。
「と、とりあえず試射をしてみるといい。」
屋内訓練場の隅、鋼鉄製の鎧を着けた木人像が置かれている。
「撃ち方はわかるか?」
「──、ん。」
瞬間の爆音。
体全体を揺さぶり、腹の底にまで震えるような轟音が鳴り響く。建物全体も振動し、天井から埃が落ちる。
木人像は消し飛んだ。
その先の壁にも直径1m程の穴が……、弾丸は隣の格納庫に突入し、そこにあったマグナの胴体に突き刺さって止まっていた。
「あ、は、はは、」
アルバートが放心状態だ。よかったなアルバート、君のマグナはムカデ銃で撃たれても大丈夫みたいだぞ、かなり凹んだけどなっ!!
「い、一発で失神ってことは無さそうだけど、レイン? まだ撃てそう?」
俺は覗うようにレインに聞いてみる。
「ん──、まだいけます。」
余裕っぽい。銃の反動もかなり大きそうなのに微動だにしてないし、もしかして俺より強いのでは……?
ムカデ銃だけでは接近されると弱いということで、大型の金砕棒も持つということでまとまった。
普通サイズの鈍器では、先ほどのメイスのように破裂しかねないとのことで、こちらも大型だ。
巨大な金砕棒と大型銃、それぞれを片手で振り回す細身の少女。あの細腕で……、レインさんマジ半端ないっす。
防具については、どうもしっくりくるものが無さそうだ。パワードアーマーは嫌と言われたんで、もう少しシンプルっぽい物を俺が構築しますかね。
紆余曲折あったが、レインの装備も決まった。その後下宿に戻ると、レインは待ち構えていたサンディさんに拉致されていった。夕方、帰ってきたレインは衣服やら雑貨やら、大量の荷物を抱えていた。
あまり表情が豊かとはいえないレインだが、サンディさんとの買い物は楽しかったらしく、少し嬉しそうだった。こうしてみると、本当に親子みたいだな。
その日の夕食は、急遽レインの送別会が行われた。
それほど大きな食堂ではないが、椅子は撤去され、簡易的な立食パーティのような状態だ。
「レインちゃん、気をつけて行ってきてね。」
「──、うん、ありがとう、サンディさん。」
日頃あまり接触が無い、他の下宿生たちも送別会に参加している。
俺も飲み物と食べ物を手に持ち、サンディさんや旦那さん、レインのやり取りに拍手をしていた。
って、俺も行くんだよね? 行くんだったよね? ただの送別会参加者みたいになってるけど!!
数日後、出立の日の朝にも、サンディさんによる涙の見送りがあったことは言うまでもない。
俺たちは馬車に揺られ、王都の郊外に向かっている。
王都は山のふもとに広がる都市だ。馬車は山を下る方向へと向かっている。
馬車には俺とレイン、それにエリーゼとアルバートが乗っている。アルバートは道案内として俺たちを迎えに来てくれたのだが、なぜかエリーゼも一緒に乗っていたのだ。
「今回の目的地は廃墟遺跡"ノヴマ"。」
正面に向い合せで座っているエリーゼが口を開く。ちなみにレインは俺の隣だ。
廃墟遺跡は世界各地に存在する。俺が実地戦闘実技で訪れたのは"スプリンゲン"という名の廃墟遺跡だ。
「"ノヴマ"は王都から南東方向だ。徒歩だと1~2日、馬車でも1日程度はかかる。。部隊を率いての行軍だと2~3日の距離だな。」
アルバートが補足説明を入れてくれる。
「まさか、この馬車でそのまま向かうのか?」
そういえば、どうやって行くとか聞いてなかったな。
「いいえ、私たちの分隊が持つ特殊装備を使うの。これから向かう郊外の格納庫に保管しているから、期待しといて。」
なんだかエリーゼが嬉しそうだ。
というか、どんどんと王都を離れ、周りは何もない丘陵地になってきているんですが……。
ずいぶん前に街道からも外れてしまっているし。
「こんな場所に格納庫? モンスターも出るのでは?」
「私たちは近衛兵団第13独立部隊。このあたりのモンスターに後れを取るようでは隊員にはなれないわね。」
「そ、そーなんすか……。」
なれないわね(キリッ)じゃねぇよ。とんでもないブラック企業──、もとい、ブラック分隊だな
そんなやり取りをしていると、馬車が停車した。
「ついたみたいね。」
「おおー」
俺は馬車を降りたところで小さく歓声を挙げた。
そこには幅50m、奥行きは50m以上、高さも20m程もあるような大きな建屋があった。
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スペックシート:レイン、ルクト・コープ(識名 孝介)
氏名:レイン(本名 ,%&#|$'-レイ^n)
性別:女
年齢:16?
タイプ:遠距離戦
装備:
・PEバッテリー
高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。
無線給電によりエネルギー量は自然回復する。
・全身義体
チタン合金による骨格、強化繊維ベースの強靭な人工皮膚によって構築されている。
【
動作には人工筋繊維と
・
衝撃発生器を銃身に多数取り付けた多段式加速銃、通称ムカデ銃
口径20mmにもなる大型銃。全長は140cm程度、銃身は70cm。
銃身内に多数の衝撃発生器が配置されており、連続衝撃による超加速で弾丸を打ち出す。
一応専用弾は存在するが、作りが異常に頑丈であるため、口径に収まれば何でも打ち出せる。
ただし、銃身内で連続的に衝撃を浴びても破損しない強度は必要。
通常はこの銃を撃てるほどの
・オープレシーインジェンス
レイン専用、通常の
レインの過剰な
・メタルヘルム
孝介が【EQコンストラクタ】で構築した開閉式フルフェイスヘルメット。
・リキッドドレスアーマー
孝介が【EQコンストラクタ】で構築した長袖・ロングスカート形状のワンピースアーマー。全身黒色。
ポリアミド素材にダイラタント流体を合わせた素材で作られており、通常時は柔らかいが、速いせん断刺激(衝撃)
には強い抵抗力を発揮する。
両足のフィールド発生器の邪魔にならないようにスカート形状としてある。
残念ながらスカートの中はショートパンツをはいている。
諸元:
・PEバッテリー
容量:5800kWh、最大出力:800kW、最大蓄積能力:300kW
・フィールド発生器×2(両足)
最大出力:35kW(推力:1000N)(2基合計)
技能:
・飛行
氏名:ルクト・コープ(
性別:男
年齢:15
タイプ:中近距離戦
装備:
・PEバッテリー
高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。
無線給電によりエネルギー量は自然回復する。
・義手義足
チタン合金による骨格、人工筋繊維による作動、強化繊維ベースの強靭な人工皮膚によって構築されている。
【
・圧縮格納μファージ
機能を停止し、体積圧縮されたμファージ。体内や義手義足の余剰スペースに格納保存されている。
そのままでは使用できない。使用する場合には解凍展開、機能の再起動を行う必要がある。
展開すると黒い粘液体で広がる。展開状態であれば装備の設計変更、再構築など、様々な用途に使用可能。
・パワードアーマー
チタン合金外骨格、内部に人工筋繊維によるパワーアシストシステムを搭載した全身鎧。
頭部もフルフェイスでカバーするため、外からは顔が見えない(中からは各種センサで外の様子がわかる)
・麻の上下
住民がよく着ている一般的な服装。
諸元:
・PEバッテリー
容量:3000kWh、最大出力:500kW、最大蓄積能力:300kW
・フィールド発生器×4(両手両足の義手)
最大出力:72kW(推力:1600N)(4基合計)
技能:
・飛行
・
ウィラクトによる衝撃波。近距離用であるため、射程は数十cm。
・
ウィラクトによる衝撃波。高収束による遠距離用。射程は数m。
スラストタイプは距離で威力が減衰するため、攻撃力は
・
フィールド発生器の圧縮器内圧を限界まで引き上げ、威力を増した
収束することができないため、接近して放つ必要がある。粒子圧縮器が過重に耐えられず
1回で破損する。威力は
・
ディール粒子かく乱により思考混乱。一時的な全身麻痺を起こす
相手の頭部付近に直接触れる必要がある。
・
思念波を球状に展開し、防御用の障壁を生成する。物理的攻撃や思念力攻撃を防ぐことができる。
・
各種リミッターの解除(飛行機能、パワーアシスト機能など)と、思考加速を用いることで、稼働速度域を数段上げることができる。
使用時間はシステム上の制限は存在しないが、PEバッテリーの消耗や生体部分への負担を考えると3分程度が最適。
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