ほんとにあった怖い?話

小山空

case.1 欠勤連絡 佐藤健(仮名・46歳)

 これは二年前、私がスーパーの精肉部門でチーフをやっていた時の話です。


 忙しさのピークが過ぎた夕方頃、業務連絡用に持たされているPHSが鳴りました。


「はい、精肉チーフ佐藤です」

『あ、もしもし、パートの田中さんからお電話です。お繋ぎしてよろしいでしょうか?』


 この時点で私は嫌な予感がしていました。休みのパートさんから電話がかかって来て、いい用事だったことは一度もなかったからです。しかし、話を聞かないことには進みません。

 私は覚悟を決めました。


「はい、お願いします」

『はい、じゃあお繋ぎします』


 短い保留音の後、電話が繋がり、田中さんの声が聞こえてきました。


『あ、チーフ、お疲れ様です』

「はいはいどうも。どうしました?」

『実は、娘が熱を出しまして……。明日病院に連れて行くので休ませてほしいんです』

「あぁ……そう、ですか……。大変、ですね……」

『はい、すみません。では――』

「あ! ちょっと待って」

『な、なんでしょう?』

「女性にこんなことを聞くのは申し訳ないんだけど、田中さん、今年でいくつだったっけ?」

『え? えっと、五十八になりました』

「そう、だよね……」

『えぇ、それが、何か……?』

「あれ、娘さんはいくつだったっけ?」

『今年で三十二になり――』

「だよねぇ! 最初聞いた時は一瞬、小学生くらいの娘さんで脳内再生されそうになったけども! 田中さん結構いい歳してるから娘さんもそれなりかなぁとか思ったら、三十二歳かよ!」

『そ、そんなに怒らないでくださいよ』

「あぁ、すまん……。で、熱って何度なんだよ」

『三十七度二分です』

「微熱じゃねぇかよ!」

『……えぇ、まあ』

「あ、いや、あれか? なんか、持病とか、あんのか?」

『いえ、そういうのは全く』

「ねぇのかよ! じゃあただちょっと熱っぽいだけの三十二歳か? そうだよなぁ?」

『いや、でもほら、病院まででなんかあったら大変ですし……』

「おぉ、なんだ……。そんなに遠くの病院に行くのか?」

『まあ』

「どこよ?」

『はい?』

「病院どこにあるの?」

『あぁ、行きつけの八百屋さんの向かいに――』

「いや、それもどこだよ!」

『家から歩いて十分くらいのところに――』

「ちけぇじゃねえかよ! その距離で何が起こるんだよ」

『……転ぶとか?』

「三十二歳は転んでも自力で立ち上がれるんだよ! あぁん? 急に電話かけてきたと思ったら、三十二歳の娘が微熱だしたから歩いて十分の病院に連れて行くだぁ? 四十年生きてて聞いたことねぇよそんなの!」

『ちょっと、なんでそんなに怒鳴るんですか……』

「ちょっと熱っぽいだけの三十二歳なら五十八歳の親よりは調子いい可能性があることに気づいたからだよ! どっちが付き添いかわかんねぇだろ!」

『じゃあもういいです。あ、でも私もちょっと風邪気味なんですよね。ゲフンゲフン』

「お前よく今更そんなこと言えたな……」

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ほんとにあった怖い?話 小山空 @yukiakane

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