第374話華音の難儀には女子が協力するようだ。

華音のブログ話などがまとまり、いつものように文学研究会は集団下校、途中から雨宮瞳も加わって最寄の駅まで歩いていると、華音のスマホにコール。

シルビアだった。

そして、いきなり怒っている。


「華音!このナマケモノ!」

「私たちの学園の文化祭に出てくれるって約束したでしょ!」

「はっきりテーマを言って!来週の土日だよ」

「出たとこ勝負ってわけ?」

「それじゃ、計画作るほうは困るの!」

「さっさと作りなさい!」


何しろ、周囲を歩いている文学研究会や瞳にも聞こえるほどの大声。


長谷川直美が、「うんうん」と答えるばかりで、電話を終えた華音に声をかけた。

「シルビアさん?女子高の文化祭に華音君が出るの?」

華音は涙顔。

「すごく恥ずかしいし、出たくないけど、すごく強引で」

花井芳香

「わかるような気がする、強いよね、シルビアさん」

佐藤美紀

「ねえ、大変だったら手伝おうか?テーマは?」

華音は、ポツリ。

「あの・・・笠女郎についてにしようかなと」

雨宮瞳は首を傾げた。

「え・・・誰?その人」

志田真由美が、フフンとうれしそうな顔。

「そこがテニス部と文学研究会の違い、万葉集の女流歌人、大伴家持にあてた恋文で有名」

雨宮瞳は、ムッとした顔。

華音がすかさずフォローする。

「でも、笠女郎は、結局フラれるんだけど」

「歌そのものは、素晴らしい」


長谷川直美は華音に迫った。

「うーん・・・手伝いたいなあ、手伝っていい?」

「浅草に行くのはいつでもできるし」

この提案については、文学研究会の面々は、全て賛成の挙手。


花井芳香がさっそく歌を詠む。

「情熱の女流歌人ね、いい歌を詠む」

「託馬野に 生ふる紫草 衣に染め いまだ着ずして 色に出にけり」


佐藤美紀が現代語訳。

「託馬野に生えている紫草で衣を染めたのですが、まだ着てもいないのに、色に出て、人に知られてしまいました」

「つまり、自分の片思いの恋心が、紫草に染めた衣を着てもいないのに、家持と結ばれてもいない前に、他人に知られてしまった」

「他人とは、世間の人か、大伴家持をめぐって三角関係の坂上大嬢か」


志田真由美は夢見るような顔。

「いずれにせよ、知られてしまったからには、何とか私を愛して欲しい」

「女性からの求婚かなあ、せつないよね」


しかし、そこまでの知識がない雨宮瞳は焦る。

「うーん・・・源氏に加えて万葉集?マジに大変」

「華音君に、すがりつくしかないな」


少し黙っていた華音が全員の顔を見た。

「本当に申し訳ありません」

「シルビアと春香が、本当に強引で」

「そもそも、他校の、女子高の文化祭を見に行くのも遠慮したいのに」

「それに出演しろとか、常識では考えられない」


長谷川直美が、その華音の肩をポンと叩く。

「いいよ、華音君が困ることには協力する」

「それと、華音君を他校の女子に奪われても困るしね」


華音はキョトンとなるけれど、周囲の女子全員は、「その通り」と、力強く頷いている。


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