第357話華音は喧嘩を買うようだ。

華音の「ほぼ挑発」のような言葉で、都内選抜空手選手数名がスコップを手にするけれど、片手で持ち上げるまでが限度、とても親指と人差し指だけで支えることが出来ない。


その様子を見ていた潮崎師匠が、業を煮やした、

「しょうがねえなあ、今の若いもんは」

「何の鍛錬をしているのか」

そして、都内選抜監督前田を一瞥。

「そこの指導をするお偉い先生、華音に喧嘩を仕掛けたんだろ?」

「じゃあ、華音より強いはずだ、やって見せろ」


都内選抜監督は指導している空手選手や、華音たちの視線もある。

「そんな・・・急に・・・こんな鍛錬はしたことがない」

と言い訳をしながら、スコップを親指と人差し指で支えようとする。

しかし、無理だった。

「うわ!」と声を出した瞬間、スコップは地面に転がり落ちる。


潮崎師匠は、呆れたような顔。

「情けねえなあ・・・おい・・・」

「身体全体の筋力、そのバランスが出来ていないから、そうなる」

「指先だけで持とうと思うから、そうなる」

「それがわからん?」


そして華音を見た。

「華音、しかたない、喧嘩仕掛けられたんだろ?」

その次に恐ろしい言葉が出た。

「買ってやれ、遊んでやれ、怪我させない程度に」


その言葉で、柳生清は頭を抱え、文科省藤村はギョッとした顔。

ただ、吉村学園長は笑いだした。

「そうねえ、特別許可出してもいいかな」

「あくまでも華音君が怪我をさせない条件でね」


すると、都内選抜の空手選手たちの顔に、怒りが走った。

「スコップ持ちなんて、空手に関係ない!」

「恥かかせやがって・・・空手なら負けねえ!」

「怪我させない程度って、ふざけんな!」

「そもそも、遊んでやれって何?おれたちはお客様だ!」

監督の前田も、プライドを傷つけられたと思ったようだ。

潮崎師匠に厳しい顔。

「警察庁だか自衛隊だか、外人部隊?知るか!そんなの!」

「ここまでコケにされたんだ、あんたも許せん」


ずっと黙っていた華音が口を開いた。

「遊ぶのはいいけれど・・・ここで?」

「まあ、僕はどこでも、何人でも一緒」

「でもねえ、怪我をさせないなら、畳の上のほうがいいかな」


潮崎師匠は、吉村学園長の顔を見た。

「まあ、悪いけれど、確かに実力が違い過ぎる」

「お客さんに怪我をさせるわけにもいかんだろ」

「畳の道場でも貸してあげてくれ」


吉村学園長は潮崎師匠に確認。

「師匠もご覧に?」


潮崎師匠は首を横に振る。

「いや、見る意味がない」

「あほらしい」

「柳生清と昔話でもする」

柳生清は苦笑い。

「霧冬の文句?」

潮崎師匠は笑う。

「お前の親父のえげつない技についてさ」

柳生清は、ククッと笑う。

「あんたの技も、えげつない」

潮崎師匠は華音を見た。

「でもな、華音には何も通用しない」

柳生清の顔が厳しい。

「親父が言っていたよ、人間凶器って」


その華音は、ニコニコとして、空手部の練習場に向かって歩き出している。

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