第309話周氏との対話

老舗中華料理店にて、華音と周氏は和やかに話をしている。


「奈良から出てきて、少しは落ち着いたかな?」

華音

「いろいろあったけれど、大丈夫です」

「今日は周さんに逢えたので、もっと元気になりました」

「うれしいことを言うねえ、ありがたいよ」

「こんな華音君みたいな若い子に言われると」

華音

「中華街も、ますます豪華になりましたね」

「うーん、私は昔のほうが好きかな、今は華美に走り過ぎかもしれない」


その話にお姉さまたちが、自然に加わりだす。

今西圭子

「日本では考えられないような、いろんな食材があって、いつも驚きます」

「そうですねえ、お嬢様たちには、時々グロテスクに思えるものもあるかな」

「蛇そのものを食材にしてあるとか、鶏の足とかね」

松田明美

「しかし、そういうグロテスクなものに、滋養強壮がある場合も」

「何しろ、歴史があるからね、研究も深く」

シルビア

「いろんなブームがありましたね、肉まんブーム、フカヒレブーム、焼き小籠包ブーム、タピオカブーム」

「そうだねえ、ついつい、ブームになると、多くの店で同じようなことをしてしまう、商魂たくましいというかね」

春香

「食べ放題の店も多いですね、いつも食べきれない」

「うん、飽食の文化というものがあるね、とにかく量でお客様を満足させたい」

エレーナ

「古代ローマもそうですね、とにかく大量に料理を出して、残るくらいが招いた家の名誉とか」

「それも、食材が豊かであることの自慢、経済力の自慢なんだけれど、一方で貧しさにあえぐ人も多い」

雨宮瞳は周氏に質問。

「テニスの部活でサプリだけを食べる人がいて、不安です、普通の食事をしないんです」

周は残念そうな顔。

「普通の食事に、しっかりとした滋味があるんです」

「そんな化学の薬で、味も何もないものを食べて、何の人生の楽しみがあるのでしょうか」

「数値上の健康だけを得ても、心は廃れます」


ずっと黙って聞いていた華音

「サプリ中心の人も、いつまでも、それだけではないと思うよ」

「人の心も、身体の状態も、常に揺れ動き、移り変わる」

「今は、そういう状態であっても、やがては普通に食べるはず」

「あまり気にし過ぎても、仕方がない」


周は、華音の言葉に満足そう、話題を変えた。

「どう?格闘の話は、相当上達したみたいだね」

「この間、霧冬さんが来たよ」


華音は、うれしそうな顔。

「あはは、何か言っていました?」

周も笑う。

「うん、怖がっていたよ、鍛え過ぎたってね」

華音は、恥ずかしそうな顔。

「本当に鬼の修行でしたから、でも、何とか卒業したって言われて」

「これからは学問?」

華音が頷くと、周は一旦席を立ち、一冊の書籍を華音に。


「李白の詩集だよ、僕の愛書、華音君に渡したくてね」

華音は、感激したのか、目を潤ませている。

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