第292話原島は学園長にも抗議、生徒たちが反論し始める。

吉村学園長は、いつもの冷静な表情と口調。

「原島君、そして野球部」

「全員が金属バットを持って、特に原島君が大騒ぎ」

「華音君と多くの生徒たちが自然に協力して作り始めた花壇に、納得ができないの?」

「それほど練習の邪魔なの?花壇はグランドの端、相当離れているけれど」

「学園も、生徒たちが協力して、花壇を作ることは素晴らしいことと認めた」

「それに野球部が異を唱えるなら、野球部監督、そして顧問を通じて学園長に申し出るのが筋では?」

「それをせずに、金属バットを全員が持って、ほぼ威嚇のように、華音君たちに迫る」

「そのうえ、華音君たちが、すぐに従わなければ、土下座?」

「全員が土下座?」

「野球部の人は、何の権限を持って、そんな指示ができるの?」



原島は、吉村学園長の冷静な言葉に一瞬、押されたけれど、その冷静な言葉には、反論出来ると思ったようだ。

そして、また大声を出す。


「当たり前じゃないですか!学園長!」

「何を寝ぼけたことを言っているんですか!」

「僕たちは、栄光ある甲子園を目指しているんです!」

「そのためには、どんな小さなことであれ、目に入る邪魔なものは排除しなければならないんです!」

「いいですか?僕たちが甲子園に出場できるか、できないか!学園の名誉がかかっているんです!」

「貴方は学園長でしょ?」

「どうして学園の名誉を高めるための努力に、邪魔をするんですか!」

「チンケな花壇を作って、俺たちの練習の邪魔をして!」


原島は、野球部顧問の武田と監督の杉村にも話を振る。

「顧問先生!監督!」

「そうでしょう!いつも、そういう指導ですよね!」

「俺らは、その指導をありがたいと思うし、守る」

「学園の名誉を高める甲子園出場のためには、万難を排すべし」

「だから、邪魔になる花壇作りも、中止!」

「その先頭に立ってしまった華音は退学!ド田舎の奈良に帰す!」

「当ったり前じゃないですか!」

「学園の名誉のためなんです!」


吉村学園長は、冷ややかな視線を野球部顧問と監督に向ける。

「あなたたち、いつもこんな指導をしているの?」


野球部顧問も監督も、全く言葉が出ない。


空手部主将の剛が、少し切れ気味。

「おい!原島、学園の名誉の甲子園って、野球部以外の生徒の反感なんて、どうでもいいのか?」

「そんなことを言うなら、応援は行かないぞ」

剣道部主将の塚本も、珍しく怒っている。

「どうしてそこまで、思いあがる?」

「お前の論法だと、野球部だけが特権階級で、他は三下ってことになるぞ」

テニス部の沢田文美も、切れた。

「ふざけんじゃないよ!何様のつもり?ちょっとばかしプロのスカウトが見に来たくらいで天狗になって!」

「おまけに肝心なチャンスで見逃し三振したでしょ?それでヘラヘラしていたのは誰?」

小川恵美は泣いて怒っている。

「ひどすぎるよ、そんな程度のことで、邪魔にもならないでしょ?」

「野球部の大声のほうが、よっぽど私たちの練習の邪魔だよ」


他の生徒たちも怒りの声をあげ始めた。

「もう、嫌だ、野球部なんて」

「威張り過ぎ、甲子園が何だって言うの?」

「野球部と一部の高校野球ファンだけだよ、大騒ぎするの、それも一時的なもの」

「応援のために暑い日も、自分の部の練習を出来なくて、集められて、野球部も監督も顧問も、お礼の一言もない」

「応援するのは、当たり前と思っているのかな」

・・・・

そんな声があがる中、華音はじっと原島の目を見ている。

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