第246話柳生事務所の車の中で、不穏な情報を耳にする。

華音は、柳生事務所の車が走り出すと、運転手の井岡スタッフからねぎらいの言葉。

「華音君、毎日、お疲れ様」

その言葉に含みがある。


華音が、黙っていると松田スタッフが意味深な言葉。

「事件解決も大変だけど、お姉さまたちがもっと大変かな?」

華音がビクンとなると、小島スタッフが華音に身体を寄せる。

「華音ちゃん、いい体しているしね、顔も性格も可愛いから、自然に女は寄るの、それは仕方がない」

松田スタッフも華音に身体を寄せる。

「確かに、触れているだけで、いい感じだね」

小島スタッフの声がトロンとしてきた。

「何て言うのかなあ、お花畑風のいい感じなの、メチャ癒される」

松田スタッフは分析する。

「これは、女性に快楽を与える身体、それも御利益」


華音は、ここで本当に困った。

何しろ、二人とも、華音よりも十歳以上も年上。

一つ一つの言葉が、かなり重い。


そんな華音に、井岡スタッフからの「天の助け」があった。

「ねえ、松田さん、小島さん、いい加減にして」

「せっかく混乱から抜けて来た華音君を困らせてどうするの」

「少し華音君に事情を話そうよ」


しかし、華音が「天の助け」と期待したほどの効果は、お局様二人にはなかった。

松田スタッフ

「このまま寄り添った状態なら話題を変えてもいい」

小島スタッフ

「腕ぐらいは組んでいてもいいでしょう?」


華音は、このお局様二人のペースに支配されてはならないと思った。

とにかく冷静に、井岡スタッフに「事情」を尋ねることにした。

「ねえ、井岡さん、その事情とは、今まで発生した事に関係するもの?」

「それとも、新規に発生したものなの?」

華音としては、当然の質問になる。


その井岡スタッフの答えは、少々あいまいなものだった。

「うーん・・・今まで発生した事に関連して、新規に発生した」


少し首を傾げる華音に、松田スタッフ。

「例の格闘界に、華音君の情報が漏れてしまったみたいなの」

「スポーツ雑誌の記者からね」

小島スタッフは華音の腕を組みながら補足する。

「具体的には、柔道界、空手界、レスリング界、ボクシング界、合気道もそうかな、剣道界もそう」

「血眼になって、華音君を探しているの」


それを聞いた華音は面倒そうな顔。

「血眼になって探されれば、すぐに居所はわかってしまう」

「そもそも、そんな団体に入る気はないし」

「学園では文学研究会です」


井岡スタッフが首を横に振る。

「いやいや、オリンピックがもうすぐだろ?」

「超有望選手をスカウトして、広告スポンサーをつければ、それぞれの団体の懐も潤う」

「仮にオリンピックに出て、好成績をあげれば、スポンサーの利益は計り知れない」

「そのままスター選手にすれば、将来的にも潤い続ける」


松田スタッフがため息をつく。

「税務に詳しい黒田スタッフが嘆いていたけれど、アマチュアとはいえ、オリンピック選手は集金の道具だって」


小島スタッフも嫌そうな顔。

「まあ、特に儲かるのは、団体のお偉いさんだけかなあ、選手なんて怪我をすれば使い捨て、代替品の選手を探すだけ」


華音は、じっと目を閉じて考えている。



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