第241話華音は書庫にこもり、源氏物語研究(4)
春香は、顔を赤らめたまま、葵祭の説明を始めた。
「今から約千四百年以上前のこと」
「凶作に見舞われ飢餓や疫病が蔓延した時に、欽明天皇が勅使を遣わされ、鴨の神の祭礼を行ったのが起源」
「上賀茂、下鴨両神社の例祭で平安王朝時代の古式のままに、宮中の儀、路頭の儀、社頭の儀の三つに分けて行われ、内裏神殿の御簾をはじめ、御所車、勅使、供奉者の衣冠、牛馬にいたるまで、全てを葵の葉で飾ったことから葵祭と呼ばれるようになりました」
「路頭の儀と社頭の儀がよく知られていて、路頭の儀が葵祭の最高潮」
「都大路の行列をするのです」
「行列は、勅使をはじめ検非違使、内蔵使、山城使、牛車、風流傘、斎王代など平安貴族そのままの姿で列をつくり、午前10時30分、京都御所を出発して、王朝風の優雅な列をなして、市中を練り歩き、下鴨神社を経て上賀茂神社へと向かいます」
「また、社頭の儀は、両神社での奉幣の儀式と走馬」
華音が、春香の説明を引き継ぐ。
「この神事のために、光源氏も勅使として供奉をします」
「もともとが、京の都の祭りでも最高の人気がある葵祭」
「その葵祭りに、超美麗な光源氏が登場するのだから、ますます大混雑」
「大混雑の中で、行列を見物に来た光源氏の正妻葵の上と、愛人の六条御息所の間で、車を止める位置をめぐって、車争いが起きる」
「結局、六条御息所は、正妻の葵の上に負けてしまうのですが、それを相当に悔しく思う」
「六条御息所は、またそもそもが大臣の娘にして、しかも前皇太子の寵姫、身分的には葵の上には優るとも劣らない」
「違いは、葵の上が正妻で、六条御息所が愛人であるということ」
今西圭子がため息をつく。
「愛する光源氏が勅使として供奉する葵祭を見たいというのは当たり前」
「六条御息所にとっても、光栄である見物の席で、正妻の葵の上に恥をかかされてしまう」
「しかも、公衆の面前でねえ・・・」
「左大臣家の葵の上の車が何両も並んで陣取って、六条御息所は何も見えない」
「悔しさを押し殺して、葵の上のお供より奥に押しやられ」
「牛車の柄をかける榻まで皆、へし折られ、上品だった車もみじめなものにされ」
今西圭子が語り出すと、松田明美も、黙ってはいられない。
「その話を後で聞いた光源氏は心配になって、六条御息所に見舞に行く」
「しかし腹が立っておさまらない六条御息所は、娘の斎宮の潔斎を理由に逢おうとはしない」
「まあ、葵の上は情味に欠ける性格として書かれ、六条御息所はプライド高い教養人、その中に入って源氏も苦しむ」
シルビアも、ようやく話すタイミングのようで、
「結局、そういうことがあって、六条御息所の生霊問題になるの?」
と、華音に質問。
華音は、今西圭子に少し頭を下げて話し出す。
「僕が言おうと思ったことをほとんど、圭子さんが言ってくれた」
「そうだね、この時の恨みも、生霊発生の原因なんだろうね」
「とにかく、源氏の正妻の立場の人に、出現して祟るから」
「つまり、まずは葵の上、夕霧出産時に出現して葵の上を苦しめ、死に至らしめる」
「同じく正妻の紫の上は、女三宮の源氏への降嫁でその地位を追われ、一時は危篤となるまで、六条御息所に苦しめられる」
「その次の正妻、女三宮は最初の正妻葵の上の兄の子、柏木に犯され、不義の子薫を産む」
華音が、そこまで話した時点で、エレーナは驚きを隠せない。
「すごい複雑な仕掛けの物語なんですね」
今西圭子が、少し苦笑い。
「難しいのは、源氏の妻であっても正妻でない人には、祟っていないこと」
「花散里、末摘花とかね」
松田明美も続く。
「明石の君も、相当愛した人だけど、身分違いで、祟られなかった」
エレーナは、ますます話に、引き付けられている。
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