第203話VS柔道部顧問小川(5)

震える柔道部顧問小川を見ていた吉村学園長が、口を開いた。

そして別の質問をする。

「小川先生、最近、柔道の雑誌社から取材を受けていたようだけど?」


柔道部顧問小川の顔が、その質問で、蒼ざめる。

そして下を向き、小さな声で「はい」と答えた。


吉村学園長は、柔道部顧問小川にまた話しかける。

「そういう雑誌社は、およそ柔道着とかスポーツ用品メーカーとの深い関係があるよね」

「まあ、柔道部に限らず、スポーツ用品メーカーがスポンサーで、将来有望な選手に無償で物品を提供する」

「悪質なのは金銭の場合があるけれど・・・」

「その有望な選手を将来も抱え込む、金で支配する、広告媒体としてね」


柔道部顧問小川の肩が、その「金銭」の言葉で、またビクッと震えた。


吉村学園長は、その変化を見逃さない。

「小川顧問、悪質な場合の続きでね、その学園の指導者に仲介料を渡すって場合があるんだけどね・・・」

「・・・もしかして、そんなことはないよね・・・」

「そもそも、華音君の格闘経験と技術は、学園外には公表しない方針だったよね」


柔道部顧問小川の額には汗がふきだした。

そして、深く頭を下げた。

もはや、言い逃れができないと思ったのだろうか。

震える声で、話しはじめる。

「申し訳ありません・・・」

「篠山が・・・柔道雑誌に話してしまいまして・・・」

「すぐにその柔道雑誌の記者と柔道着メーカーが取材・・・」

「いや、接待を受けまして・・・」


吉村学園長の顔が、ますます厳しい。

「ふん・・・そんなことだろうと思った」

「いわゆる夜の街での接待でしょ?」

「肌もあらわにしたきれいな若いお姉さんたちに囲まれて」

「そこで写真も撮られ、金銭も渡され?」

「あやしい接待と、多額な金銭で縛りつける」


柔道部顧問小川は、下を向き、顔をあげられなくなった。


吉村学園長の声が厳しい。

「そういう業界の事情に詳しい人に聞いてみたの」

「たいていは、そういう接待をするってね」

「穏便な言い方で言ったけれど、小川顧問が顔をあげられないのは、アタリだったようね」


吉村学園長は、ここで間を置いて、決定的な言葉を放つ。

「つまりは金?金に困っていたんでしょ?小川顧問」

「時々、机の上に、競馬とか競輪の雑誌がある…パチンコ屋から出てくるところを見たことがあるけれど」


柔道部顧問小川の肩がガクンと落ちた。

そして震える声で釈明をする。


「はい、申し訳ありません・・・かなりな借金・・・賭け事ですが」

「仲介料を返済に回しても・・・まだまだ・・・ほど遠く・・・」

「それで・・・雑誌社とメーカーから華音君を大会に出せと・・・」

「華音君の実力とスター性は、中学の時の日本一で業界では知らない人がいない」

「その華音君が、そこのメーカーの柔道着とかグッズを持っているだけでも、かなりな広告効果があって、莫大な売り上げが確実になる」

「ただし、華音君が、そのメーカーの柔道着を使わないとか、大会に出ないならば仲介料を返せと」

「学園と家庭には、接待の証拠写真を送り付けると」

「もはや仲介料は、返済に回してしまって、お金がありません」

「それで、つい再びメーカーから催促を受けて、カッとなって焦って、無理やりに華音君を・・・」



途中から黙っていた華音が口を開いた。

「柔道の大会に出るとか、借金については、対応できないけれど・・・」

そして吉村学園長の顔を見る。

「柳生事務所に頼みましょう」


吉村学園長は、「やれやれ」といった顔で、頷いている。

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