第201話VS柔道部顧問小川(3)

不穏な雰囲気の昼休み、午後の授業も全て終了。

担任の萩原と華音が、学園長室に向かうため、廊下を歩いていると、国語教師で文学研究会顧問の田中蘭と一緒になった。

華音は黙っているけれど、二人の女性教師は、いろいろな思いがあるようだ。


萩原美香

「何か面倒なことになったね」

田中蘭

「うん、顧問の役目をしないと、今まで長谷川直美にまかせきりだったけれど」

萩原美香

「柔道部顧問の小川さんって、確かに我がままな人って噂は聞いていたけれど、あそこまでとは知らなかった」

田中蘭

「篠山君の事件で、彼の監督責任を問われたはず、けん責処分で反省文提出かな、でも何も反省していないみたい」

萩原美香

「そもそも篠山君の反則柔道にも、何の注意も指導もしなかったらしい」

田中蘭

「それだから、篠山君が、ますますつけあがって被害者まで出たのにね」

萩原美香

「親が区議でPTA役員なので、下手に注意すると、自分の身が危なくなるのか」

田中蘭

「それで篠山君が追放されれば、これ幸いと、華音君を柔道部に取り込み、大会で好成績を狙うと・・・」

萩原美香

「しかも、華音君の意志など完全に無視、学園の方針なんて、どこ吹く風」

田中蘭

「結果さえよければ、学園も認めるとでも思ったのかな」

萩原美香

「業務方針に違反しているよね、背信行為とも思う」

・・・・・


二人の女性教師の話を聞きながら歩く華音は、ひとつひとつ頷くけれど、また違うことも考えている。

「何故、あそこまで強引に迫って来たのか」

「とにかく無理やりにでも誘わなければならない理由があると思う」

「単なる我がままとか、自己顕示欲だけでは、あそこまで無理やり、強引はないと思うけれど・・・」

華音は、そこまで思って二人の女性教師に聞いてみた。

「あの・・・ここの学園の柔道部って強いんですか?」


すぐに答えが返ってきた。

萩原美香

「うん、たいてい都大会で二位か三位だね、篠山君の反則負けがなければ優勝も狙えるかなあ」

田中蘭

「ライバル校もあるけれど・・・勝負自体はいつも僅差」

萩原美香

「ライバル校の顧問も、ここの学園の顧問とは知りあいみたい」

田中蘭

「うーん・・・知り合いっていうか、敵対しているって聞いたことある」


華音は、頷いてまた別の質問。

「ところで、小川顧問って、少し気がついたことがあるんです」

「口臭がキツイっていうのかなあ」

「何か知っていることあります?」


萩原美香は首を傾げた。

「うーん・・・試合中に投げられて前歯を折って・・・差し歯って聞いたことある」

田中蘭はまた別の答え。

「お酒好きで、時々二日酔いで真っ赤な顔になっているけれど・・・歯も磨かないのかなあ」

萩原美香も、それは知っているようだ。

「そもそも二日酔いで学園に来る教師も、どうかなあと思うけれど」

田中蘭は嫌そうな顔。

「まあ、他人の思惑については、無頓着なタイプなんだけどね」


さて、華音と二人の女性教師の視線の先には、すでに学園長室が見えてきている。

そして、吉村学園長が、いつもより厳し目の顔で立っている。


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