第175話部屋割りで難儀するようだ。

華音の一行がお屋敷に戻ると、立花管理人が意味ありげな顔。

「華音様、先ほど、松田家の明美様より連絡がございました」

華音は、ノホホンとしているけれど、今西圭子、シルビア、春香は「これは聞き捨てならない」と、耳をそばだてるどころではない。

華音と立花管理人のまわりに、ピッタリと張り付いている。


華音は、その張り付きの意味などわからないので、

「立花さん、そういえば、さっき吉祥寺でバッタリ出会ってね」

「根津のおじさんもホテルで見た」

「明美さんが、6時ごろに家に来るようです、お茶ぐらいは淹れようかな」

程度。


その華音の「ノホホン発言」に呆れた今西圭子、シルビア、春香が思いっきり華音を蹴飛ばそうとする瞬間、立花管理人。

「何でも、警察庁長官の要請もありましてね、当分は政府として、文化書籍を警護したいと」

「・・・ということなので、華音様、いかがでしょうか」

「洋館には、まだ何部屋か空き室がございますし」

立花管理人の顔が苦しそうなので、おそらく連絡の際、相当な強い要請であって、断り切れなかったことが、簡単に想像がつく。


華音は、それでも少し考えた。

「まあ、いいかなあ、それも正論かなあ」

結局、あまり考えていなかったのかもしれない。

「お任せします、断れないんだったら」

「危ない人でもなく」


ただ、今西圭子は、大のムクレ顔。

「あいつめ・・・策略だけはある」

「胸は私が勝つ」

「まだまだシルビアや春香など、子供に過ぎない」


シルビアと春香は、真剣に相談。

シルビア

「私たちも華音保護を目的として、洋館に住むべきなのでは?」

春香は、厳しい顔。

「洋館などでは生ぬるい、華音の部屋に一緒に住む」

シルビアは即了承。

「今さら恥ずかしいことも何もない」

春香は決心した。

「やはり、薬師三尊は、ひとつのベッドであるべきなの」

シルビアも決心を固めた。

「大年増、曲り角が近い女どもの魔の誘惑から華音を保護しなければならない」

春香はシルビアとしっかり握手。

「こうなったら、さっさと引っ越し準備」

シルビアは、走り出す。

「そうだ、一刻の猶予もない」



そのシルビアと春香の様子を見た今西圭子。

「は・・・まだまだガキだ」

「年増には年増の魅力がある」

「松田明美の策略よりは、いいけれど」

ここでも、他の女をこき下ろす。

そういう性格なのかもしれない。


華音は、そんな様子を見ていても、全く無反応。

立花管理人に

「部屋割りはどうします?」

などと「ノホホン質問」


立花管理人は、なかなか返答に困るようだ。

「あ・・・こちらでは、決めません」

「松田家の明美様がお越しになられた時点で、皆様でお決めになってください」

そして、華音と今西圭子に頭を下げた。

「お夕食の準備もございますので」

踵を返して、サッと立ち去ってしまう。


華音が部屋割りを少しだけ考えていると、その松田明美からコール。


「華音ちゃーん!もうすぐつくよ!走ってる!汗かいているから、お風呂入りたい!華音ちゃんと入りたい!」

「今日から政府の仕事で、一緒に住むの!」

「一緒の部屋にして!いいよね!わーーー!楽しみ!」


華音が一言も返せないまま、松田明美の言葉が続いている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る