第69話文学研究会で歓迎される華音

文学研究会部室のドアは、ゆっくりと開かれた。

「どうぞ、こちらに」

2年生だろうか、女子生徒が華音に声をかけ、中に入れる。


部室の中には、大きなテーブルと椅子が10脚ほど。

3人くらいの女子生徒が座っている。

壁は一面の本棚になっているけれど、珈琲や紅茶を淹れる、あるいは軽食でも作ることがあるのだろうか、小さなキッチンと電子オーブンレンジと冷蔵庫も備えられている。


「失礼します」

「三田華音と申します」

華音が再び頭を下げると、女子生徒の中央に座っていた女子生徒が立ち上がった。

落ちついた雰囲気、色白で華奢なタイプ。

華音は、この女子生徒が、昨日、喫茶店で名前を聞いた部長の長谷川直美かもしれないと思った。

しかし、見る限り、高飛車とかシンパで固めると言われるような感じではない。

むしろ、落ちつきと、しっとり感、華音を見て、少し微笑んだ顔が、とても愛らしく美しい。


「ようこそ、文学研究会へ」

「お待ちしておりました」

「私が長谷川直美、ここの部長をおおせつかっております」

立ち上がった女子生徒は、「長谷川直美、文学研究会の部長」と名乗った。

声そのものも、しっとり系、華音は珍しく、その顔を赤らめる。


華音は、ホッとしたと同時に、「お待ちしておりました」に、少し戸惑う。


「さあ、おかけになって、華音君」

長谷川直美が、華音に声をかけた。


「あ・・・はい・・・」

華音は、また顔を赤らめ、椅子に座った。


長谷川直美は、華音を見て、またやさしい笑顔。

「転校初日から、大人気のようで」

おそらく、テニス部員や顧問の怪我治療や、剣道部や空手部の話が「部外秘」とされながらも、いつのまにか伝わっているのだろうか。


「いえ・・・あまり目立ちたいとか、そういう性格ではないのですが」

華音は、長谷川直美や女子生徒たちに見つめられて、言葉は慎重になっている。


華音を部屋に入れた女子生徒が、華音の隣に座った。

「私は、花井芳香って言うの、二年生」

「でもね、華音君、相当有名だよ、早くも」

座りながら、少しずつ、スリスリ気味。


華音は、ただ聞くばかり。


長谷川直美の右隣の女子生徒はにっこりと

「私は佐藤美紀、一年生、華音君の隣のクラス」

「瞳とは中学で同級生だった」

「ここに来てくれてうれしい」

「ねえ、今度お昼一緒に!瞳なんていいからさ!」


左隣の女子生徒も自己紹介。

「私は志田真由美、三年生」

「それにしても、華音君、可愛いなあ」

「街歩きのデートのお供になって!」

とにかく華音を「愛でている」。


華音は、ますます、どう対応していいのか、わからなかったけれど、ようやく口を開く。

「それで、文学研究会のことなんですが。この学園では、どのような活動を?」

入部希望を持つ華音としては、一応聞く必要があると思った。


すると、部長長谷川直美が、またニッコリ。

そして華音に意味深な言葉。

「ふふ・・・いろいろと、お噂は聞いているの」

「転校前の学園のこと・・・」


華音は、また顔を赤くしている。

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