第29話剣道場に向かう華音と、瞳
午後の授業も平穏、静穏のうちに終了、三田華音は鞄を持ち、立ち上がった。
雨宮瞳も、即座に立ち上がる。
「華音君、剣道部に行くの?」
聞いてみるけれど、少し不安。
しかし、華音はにっこり。
「はい、何とか一人で行きます」
「お昼にお話したことを、同じに話すだけなので」
雨宮瞳は、キュンと寂しい。
「え?いいの?場所わかる?」
「ついていかなくていい?」
本音はついていきたくて仕方がない。
華音は笑って首を横に振る。
「雨宮さんは、テニスの練習もあるでしょうから」
「二日連続で、練習を休ませるわけにはいきません」
まったく当たり前のことを言ってくる。
雨宮瞳は、頷いた。
「う・・・うん・・・」
でも、寂しい、華音の言葉が当然としても、寂しいのである。
その華音は、そんな瞳に、
「じゃあ、練習、頑張ってください」
と、言い終えて歩き出してしまった。
ただ、その華音と瞳の状況はともかく、華音は廊下に出るなり、たくさんの学生に囲まれる。
「ねえ、華音君、剣道場に行くの?」
「危なくない?」
「竹刀持たされるかも」
男子生徒からも、女子生徒からも、囲まれている。
どうやら、朝の廊下での話、お昼の学食レストランでの話が広まっているのだろうか。
華音は、ニコニコしている。
「そうですね、先輩方との約束だから行きます」
「危なくはないと思いますよ」
「話せばわかる話ですし・・・竹刀ねえ・・・」
「持たされれば・・・持つかなあ」
「ただ、だからといって、剣道部にも入るわけではないので」
そんな華音に、また声がかかる。
「ねえ、私たちもついていっていい?」
「もしかして竹刀持ったら見たいしさ」
「というか、見たい人が多いみたい」
「なんたって、中学日本一だもの」
・・・・・
とにかく大騒ぎになっている。
華音は、少し困ったような笑い。
ただ、歩みは続ける。
その華音の後を、大勢の学生たちがついていく。
雨宮瞳は、思った。
「うわ・・・マジ?」
「じゃあ、私って、何なの?」
「私は、いらないって、華音君に言われちゃったし」
雨宮瞳は、寂しさのうえに、ショックまで加わった。
そんな落胆状態で、テニスコートに向かう雨宮瞳に、クラスメイトから新たな情報が入った。
「瞳ちゃん、学園長と萩原担任と、保健の三井先生も、剣道場に向かったみたい」
「何かあるのかな、危ないのかな」
雨宮瞳は、もうドキドキが激しい。
とても、この状態では、テニスの練習どころではない。
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