第4話三田華音君のお昼はお弁当
一年A組の午前中の授業は、通常通り、全く静穏のまま、終了した。
そして、これも当然のことで、昼食の時間となる。
萩原担任から、「当面のお世話」を頼まれた雨宮瞳が、華音に声をかけた。
「ねえ、華音君、お昼は持ってきたの?」
雨宮瞳としては、まず華音がお昼を持って来ていなかったら、学食レストラン、あるいは、校内販売のパン屋などに案内しようと思っている。
そして、その雨宮瞳の声かけに、一緒に反応する生徒も多い。
男子生徒も女子生徒も、次々に声をかける。
「華音君、一緒に学食に行こう」
「学食のカツカレーは絶品だよ、男の味って感じ」
「鉄板焼きナポリタンも美味しい」
「パン屋さんでもいいよ、美味しいパンあるよ」
「フレンチトーストも美味しい、自家製のヨーグルトもある」
最初はメニュー中心のお誘いだった。
「華音君、担任が雨宮さんにお世話お願いしたけれど、私たちにも頼ってね」
「雨宮さん、担任に言われたからって華音君を独占しないで」
よくわからない反応まで出てきて、収まりがつかない。
それでも、少し困った顔をしていた華音が、ようやく恥ずかしそうに口を開いた。
「あの・・・いろいろ、誘ってもらって、ごめんなさい」
「実は、家からお弁当を持ってきたので、それを食べることにします」
「本当に、学食レストランとか、パン屋さんにも興味があるのですが」
雨宮瞳は、華音の答えに、少しホッとした。
実は、雨宮瞳も、自宅から持ってきたお弁当だったから。
そして、少々がっかりしたようなクラスメイトに、
「はい、そういうことだから、今日のところは」
と声をかける。
「うーん・・・仕方ない」
「今日は初日だしね」
「そうか、お弁当か・・・」
「一緒にレストランもいいなあって思っていたけれど」
そんな話をしている中、他にもお弁当を持ってきた生徒たちが集まって来た。
「ねえ、雨宮さんと華音君、せっかくだから机を寄せて、お弁当タイムにしない?」
「うん、その方が楽しいし、華音君と話したいし」
「そうだよね、もっと知りたいよね、奈良のこととか」
・・・・・
ここでも、そうするしか収拾がつかない。
そして、華音を囲んで、「お弁当タイム」となった。
雨宮瞳は、この時点で、全く信じられない。
「どうして、こんなにまとまるの?」
「勉強中心とか、部活中心の人ばっかりで、他人のことは我関せずの人ばかりなのに」
「華音君、人をひきつけるのかなあ・・・うーん・・・」
ただ、いつまでも「信じられない」だけでは、昼食も何もない。
それでも、雨宮瞳が「食べようか」と声をかけ、華音を囲んでお弁当を食べ始めることになる。
さて、華音がその机の上に置いたのは、四角い箱と赤ワイン色の水筒。
そして、華音がその箱を開けると、緑の葉で全て包んである。
かすかに甘酸っぱい香りが漂ってくる。
華音は、注目するクラスメイトに少し恥ずかしそうな顔。
「あの・・・鮭と鯖の柿の葉寿司です」
「奈良の・・・もともとは吉野の郷土料理です」
華音は、次にワインレッドの水筒を開けた。
「水筒の中は、熱いほうじ茶です」
確かに、ほうじ茶独特の、ホッコリとする香りが漂っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます