第1話 ♪それは~紛れもなく~TASさ~♪

「急に異世界から呼び出して済まない。だが説明したように手段を選んでいる暇はなかったんだ。わかってくれ」

向かいに座る恰幅のいい中年男性が言う。

「それはまあいいです。で、その魔王をやらを討伐すればいいんですか?」


 俺は亘理青葉。某動画サイトの一部界隈で「たけち」の名で知られるRTA走者の中身だ。知らない人のために解説しよう。RTAとはリアルタイムアタックの略称で、ゲームをいかに素早くクリアするかを競うものの事である。俺も投稿をしている某動画サイトではかなり盛んで、RTA絡みで様々なドラマや迷言が生まれている。

 俺はその中で、名作駄作を問わずイロモノと謳われるゲームを中心に走る男と名を馳せている。

 で、そんな俺がアニメ化までしたさる伝説のゲームのRTAを終えたところ、突然意識を失い、気がつけば異世界っぽいこの応接間にいたと言うわけだ。

 なんでも、俺の今いる国は、魔王率いる魔物達に脅かされており、異世界から勇者を呼び出してそれを打破して貰おうとしたそうだ。


「そのことなんだが、無論魔王を倒すのも仕事ではあるが、君の主となる任務は別だ」

「は?」

「実は異世界からの勇者というのは君ではないのだよ。君に来て貰う前に既に召喚しているのだが、問題があってな」


 衝撃の事実! てか、わざわざ新しく呼び直すってどんなにナニな勇者だったんだよ。

「なにがあったんですか。私の任が魔王討伐ではないということは実力がないわけではないでしょう」

「うむ。その通りだ。実力はありすぎる位だ。だがそれゆえか少し、いやかなり……」

 向かいの中年男性もとい国王が苦い表情を浮かべる。


「……考え方がぶっ飛んでいるんだよ。ありていに言ってしまえば」

「ぶっ飛んでいる?」

「ああ。とにかくぶっ飛んでいるんだ。そんな表現が生温いレベルでな」

「はあ……」

なんて言うか言葉が出ない。一体どういうぶっ飛び方をしている事やら。

「とにかく君には勇者が変な動きをしないよう監視、報告して貰いたい。援護は……多分必要ないだろう」

「しかし、何故私が……」

「勇者曰く、実際に見て貰った方が早いらしい。早速で悪いが来て貰えないかね」

「は、はあ」

 国王に促されるまま立ち上がり、俺は勇者と対面することになった。


「ここにいるとの事なんだが……」

俺が連れてこられたのは軍の練兵場の一角で、そこで勇者がトレーニング中らしい。

「ほら、あそこだ!」

国王が指さした先には、剣を構える金髪の女性らしき姿があった。

 と、次の瞬間。

 勇者が猛烈な勢いで虚空に向かって剣を降り始めた。凄まじい勢いだ。それと同時に、勇者の足が地面を離れ、空中に浮かび上がった。否、それだけではない。こちらに向かって進んで来ている。空中で剣を振りながら。

「わかって貰えたかい。彼女がいかに常識外れかということに」

諦観の念を隠そうともしない国王に、呆気にとられた俺は返す言葉がなかった。


「君が私の補助につく人材か?」

「……ええ……らしいですね……」

我々の前に降り立った勇者は、俺にそう問いかけてきた。


 見れば、まだあどけなさの残る美幼女である。透き通るような白い肌に淡い碧眼。元の世界で言うとロシア系といったところだろうか。

 だが、それより先に突っ込むべきところがある。


「……なんですか? 今の……」

「うむ。切り上げは僅かに浮かぶから毎フレーム繰り出せば落下スピードを十分に超えて空中浮遊が可能だ。それに僅かに前進する突き出しを組み合わせるとああなるというわけだ」


 訳がわからない。なんかゲーム用語っぽいものが出てきたけどやっぱり意味がわからない。


「自己紹介が遅れたな。私はTool-Assisted Speedrun。通称TASだ。よろしく頼む」


 TASさんか……そうかTASさんか……



 勝ったな。田んぼで風呂入ってパインサラダ食ってくる。

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