第1話 ママがいなくたって行ける

「しかたないから、TVみよっか」

 りゅうくんはリモコンをウォールポケットから取り出す。

「りりちゃんね、ぷいきゅあみたい!」

 りりちゃんもTVと聞いたら前のめりだ。

「えー、りゅうくんはヒーローみたいんだけどなー」

 りゅうくんはちょっと口を尖らせて、りりちゃんとTVを見比べる。


「んー……、じゅんばんばんにしよっか?」

「うん!!」

 りりちゃんは小さな拳を握りしめて、こくこくとうなずいた。


「じゃ、えと、こっちのでTVつけて……、で、こっちのリモコンでメニューひらいて……」


 ママと一緒にやっているので、りゅうくんはもうTVの見方は分かっている。スマートテレビだってスマートにこなすのだ。

 そして、りりちゃんは大人しくTVの前でおすわりして待っている。


「んと、じゃぁ、おすすめのとこからさがそうか……」

「にーに、あれ、きれい」


 と、そこへりりちゃんが画面を指さした。


「なにが?」


 りゅうくんも画面をのぞき込む。

 並んだコンテンツ画像の一つに、真っ黒な地面に咲いた白く光る花が映っていた。


「わー! なんか、ぴかぴかしてるね!」

「ぴかぴか、きれい」


 りゅうくんは、花の映った画面を選択すると、大きく画像を開いた。

 

「……ふわぁぁぁ」

「すごっっ……!」


 二人は言葉もなく、花を見つめる。光の雫が花びらからしたたるようにこぼれ落ちていた。


「マ……!」


 声を出しかけて、りゅうくんは自分の口を押えて黙った。


「……にーに?」

「これさ……ママにみせたいよね?」

「うん……」


 うなずきながらも、りりちゃんは何となく、不安そうな顔になる。


「どうせならさー、ほんものがいいよね!?」

「えー?」

「あの花、取ってきて、ママに見せてあげよう!」


 りゅうくんのドヤ顔に、りりちゃんのお口がぱっくりと開いた。



    ***



「りりちゃん、水筒もった?」

「はい!」

「りゅうくんもリュックもったし……うん、わすれものはない」


 二人は顔を見合わせて、大きくうなずく。


「ママは……?」

「まだおかいもの」

「よし、じゃぁ、いくよー」


 二人はしっかりと手をつなぐと、TVの画面へと飛び込んだ。


――一瞬の電磁嵐。


 二人は真っ黒な地面に降り立った。


 りゅうくんは、シャツなしの素肌に真っ赤な革ベストと同色の半ズボン。頭につけているのは、飛行機用のゴーグルだ。

 りりちゃんは薄いグリーンのシフォン生地で、裾がひらひらと広がるサーキュラータイプの膝丈ワンピース。白いレースのボレロがアクセントになっている。


 そして、そんな二人へと吹きつけるのは、肌を突き刺すほどに冷たい風。

 地面は固く凍りつき、吐く息は真っ白だった。


「にーに……さむ……い」

「り、りりちゃん、上着持ってきた……?」

「ない……」


 二人の心はすでに折れかけている。


「りりちゃん、かれちゃう……」

「うわわ! ダメダメ!!」


 りゅうくんは慌てて、リュックの中身をばさっと地面にぶちまけた。


「なんかあるよ、きっと! もしなかったら、りゅうくんのけがわであっためたげるから……」


 りゅうくんは、リュックから出てきた大量の枯れ葉をかきわける。枯れ葉は風と共に舞いあがり、松ぼっくりとどんぐりが転がった。そしてそれと一緒に、カラフルなガチャガチャのカプセルがいくつか。


「あ! あったかセット!」


 りゅうくんは慌てて赤いカプセルを一つ、拾い上げる。


「りりちゃんのは、緑だっけ? ほら、これ。お日さまの絵のヤツ」

「うん」


 二人はお互いに目的のカプセルを持つと、上へと掲げる。


「「あったかぽかぽかちぇーんじ!!」」


 カプセルから白い煙がぽふんっと出た。


 りゅうくんは、耳付きの白いニット帽子に真っ赤なダウンジャケット。そしてふかふかの長ズボンにかわっている。

 りりちゃんは薄いグリーンでダウンのジャンプスーツだ。フードには真っ白いボアがついている。


「よかったー」

「りりちゃん、こおっちゃうかと思った……」


 二人は顔を見合わせると、ほっとしたように笑った。


「あ、リュックの中身、もどさなきゃ……」

「はっぱ、みんなとんでっちゃったねぇ……」

「うん……まあ、葉っぱはなくても、だいじょうぶだよ」

「でも、ひだねないと、うまくひがつかないんじゃないの?」

「まだ、松ぼっくりあるし! へーきだよ!」

「よし、じゃ、いくよ!」


 二人は手をつなぐと、今度こそ、ゆっくりと歩き始めた。

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