空の色は冬景色
紫桜 黄花
序章 出会い
春の日差しを木陰が遮り、散り終わっていない桜の花びらが舞う。
それを払うかのように、背後から走ってくる人影を感じる。
どんどん迫ってきた。あと五メートル、四メートル、三、二、一―――。
「はぁ、追いついた」
そういって彼は自分の汗をぬぐった。キラッと光る汗が飛ぶ。そんな彼をキレイと思うのはいけないだろうか……。だけど神様だって彼の姿をみたら見惚れてしまうだろう。
だって彼は現実にいるはずのない人だから―――
今から三カ月前。
引き籠りになって、ネットばかりしていた時に彼と会った。これが運命なのか、偶然なのかは分からないけど、私からしたら人生を一八〇度変わった瞬間だった。
学校に嫌気がさしてから、家に籠って一度も外に出ず世界を知ろうとも思わなかった。薄暗い部屋の中でカーテンも開けず、ぼぅっと広がるパソコンの光を見続けて何日経ったのだろうか。
毎日、朝・昼・夜がくる生活から外れて、二四時間あるはずの体内時計も狂い、廃人と化した私を怒る親にも呆れられるそんな始末。
「あ…、新しいゲームが更新されてる。…っと、これ結構最新式だぁ」
ゲーム画面のスタートボタンを押した。
「まずは設定からか。…ん、これって自分じゃなくてパートナーの設定もできるんだ」
自分の設定は難なくできたけど、理想のパートナー像が意外と思いつかない。打っては消して、また新しいもの打っては消しての繰り返し。
「私がこの私のパートナーだったら、どんな子がいいかな」
そんなことを考えていると、一年前に別れた彼氏を思い出した。
友達としてはすごく気が合っていて、男友達の中では一番仲が良かったといっても過言ではない。お互い好きで付き合ったというより、なりゆきで付き合ってみるか、みたいな感じでパートナーとしては不十分だったのかもしれない。
付き合って半年で別れ、今では音信不通になっている。
より戻したくはないが、また前みたいにバカな話がしたい。なんて変かもしれないけど、少なくとも私はそう思っている。
パートナー
私と釣り合う画面上の人。
私しか知らない唯一の存在。
久々に頭の回転が急に回り始めた。こんな性格で趣味はこれ。背丈は大きいほうがいいな。好みの顔やスタイルも設定し、最後に名前を決めるだけ。
名前か……。まあ現実世界じゃないから、イタ名でもいいけど、一応ちゃんとした名前がいいな。
考えてから数分が経った。
―――思いつかない。
よし、季節の名前でも付けておこう。今は冬だから、『真冬』にしよう。うん。こんな適当でいいのか…。まあ、ゲームだし……。
そんなこんなで全ての設定を決定した。と、おもいきや一つだけまだ残っていた。
なになに、《あなたのパートナーを出現させますか。》とな…?
よく分からないけど《ハイ》にしておく。これで本当に全ての入力をし終えた。 ログイン中という表示を待ち続け、スタート画面が出てくる。《はじめから》を押して、オープニングストーリを見る。簡単な操作だけ教えてもらって、私だけのゲームの始まり。
その瞬間、ぱぁっ、と画面がまぶしく光り目が開けられなかった。
何が起こったの―――?
光が弱まったの確認して、画面を覗く。別に変わったところは見当たらな……
「うわぁ、すごい……!本がいっぱ~い!」
「……‼ちょ、え!?」
――――誰!?
いきなり現れた彼は、少年というよりは青年に近い。もちろん男性なので、背は大きいのだけど……。顔といいスタイルといい私好みで……。ま、まさか!?
急いでゲーム画面を再確認する。画面上に《出現されたら、ハイを押して次に進んでください。》と出てきていた。出現って、そういうこと!?
パニックになっている私を放って出てきた彼は、私を気にせず部屋の中を捜索している。
おい!勝手に見んな!一応私の私物が置いてあるんだから!
「あ、あの!ちょ、ちょっといい?」
ん?と振り向いてくれたがその仕草が格好良すぎて、一瞬ドキドキしてしまった。
「なに?あ、もしかして僕を出してくれた子?わあ、ありがとう!!あと会えて嬉しいよ!!これからよろしくね!」
爽やかな笑顔で返されては何も言えないではないか……!?
「う、うん。よろしく。えっと、真冬くんでいいんんだよね?」
「そうだよ!僕は君のこと何て呼べばいい?」
子犬のようなキラキラした目でこっちを見ないでいただきたい……。
「空良。呼び方は好きに呼んで」
そら、そら、と確認するかのように私の名前を繰り返す。そんなに呼ばれると気恥ずかしいな。
「うん、いい名前だね!」
いきなり振り向いてきた!しかも爽やかスマイル!もう、ダメ……。心臓に悪すぎる……。自分好みがこんなにも破壊力があるなんて………。
「…え……っと、質問いいかな…?」
夢だと思いたいが、頭痛がするから現実だと思い知らされる。現実だと思いたくないけど…。でも謎が深まるだけだから、真冬くんが知ってる情報を引き出すのがカギとなるはずだよね…!
「真冬くんが知ってることだけでいいんだけど…。まず、ゲーム上の人なのになんでリアル(ここ)に出てこれたの?」
ドラ〇もんじゃない限りムリな話だろう。まぁ二十二世紀ではないため頭の中で削除する。しかし、ゲームといってもよくできてるよなぁ。本当に実際いる人間みたいだもん。
「僕もどうやって出てきたかは分からないなぁ」
わぁ。ほのぼの。そっか、分からないなら仕方がないよねぇ。
……て、なんでか分からないのに馴染みすぎだろぉぉぉぉ!!てへ、みたいなかわいい顔しないで…!色々と本音やら何やらでるから…!笑顔でニコニコ取り繕ってる身になって…!
「そ、そう。でも、もしゲームを閉じたら消えちゃうの…?その…、開いたら出現して、閉じたら戻るみたいな…?」
「どうだろう?」
おい!!でも実際に試してみればいっか!
「一回閉じてみるか」
ゲーム画面に戻る。一旦セーブ。そして電源オフ。どうだ!
「……………」
「……………」
「戻らないね…」
「戻らなっかたね」
戻らないということは、この狭い部屋で生活するってこと…!?
「確認していい?ずっと私の部屋にいるの?」
「そうなるかな…?」
「「……………。」」
これが彼――真冬くんとの出会いであり、私の新たなる物語の始まりだった。
空の色は冬景色 紫桜 黄花 @usamahura-flute
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