第3話.second Xmas
いつからだろう。妹を一人の女性として感じ始めたのは。
幼い頃から僕になつき、いつも僕のそばにいた妹。
幼い頃、妹はよく言っていた。
「お兄ちゃんのお嫁さんになるのは私だからね」って
まやみ。僕はいつも「まやちゃん」と呼んでいた。
そんな彼女を、僕は愛してしまっていた。一人の愛しい女性として。
血のつながった実の妹を愛することは、タブーなことなのか?
本当にそうなのか?
愛した人が、妹であったという事実。だけど、彼女は一人の女性でもある。
僕が愛した人が、ただ妹であったと言う事にしか過ぎないのではないのか?
両親がこの世を去ったとき。僕は強く妹「まやちゃん」を抱きしめた。
「守るから、俺がいつも傍にいるから。いつまでも俺がまやちゃんの事を愛し続けるから」
そう言いながら二人で泣きあったあの日。
「ずっと傍にいて、お兄ちゃん。ううん、
初めて僕の名を彼女は呼んでくれた。
もうそれだけでよかった。彼女の想いが僕の胸の中に伝わる。
ドクン、ドクンと小さな鼓動が、僕の鼓動と重なり合う。
そっと、彼女の唇に、僕の唇が重なり合い、互いの気持ちが通じ合う。その瞬間を確かめ合った。
それから4年後のクリスマスの夜。彼女は突然僕の前からその姿を消し去った。
置き手紙一つ残さず、あのペンダントだけを残し、僕の前からその姿を消し去ったのだ。
その時僕の頭の中に沸いて出たのは、やはり実の妹を愛しては行けなかったのか。
妹を愛する事はこの世界においてタブーなこと、近親の兄妹である僕らがお互いを愛する事を、この世界は認めてはくれなかったんだと。
でも、僕は諦めなかった。お互いを信じ、どんなに険しくとも何を言われようとも僕の気持ちに偽りはなかった。
まやみ、僕のこの気持ちは永遠に変わらない。
どんなことがあっても変わりはしない。永遠のこの想い。
舞い落ちる小雪の中。空を見上げ、あのまやみの笑顔を思い出す。
「どうしたの? こんな夜空を見上げて」
彼女が不思議そうに言う。
「なんでもないさ」
「もしかしてまた思い出していたの?」
「……たぶんな」
「そうかぁ、寂しいよね」
「ああ、」
「でも私は、あなたの妹にはなれない。ううん、あなたが愛する人にはなれない。どんなにこの身があなたの愛する人に似ていようとも」
「そんなことはわかっている。君は君であることに」
「わかっている。でもあなたの心の中ではそうは思っていない。それはどうしてなのかも、この私に問いただすこともしない」
問いただすこともしない。
そこに触れれば彼女は、まやみのと同じようにもう僕の前から姿を消し去ってしまう。そんな恐怖感が、僕を襲う。
「意気地なし。私に想いをぶつければいいんじゃない」
呟くように彼女はちょっと怒ったように言う。
「意気地なしか。そうかもしれないな俺は」
「そうよ意気地なしよ。まやみさんへの想いってそんなもんだったの?」
「そこまで言うのなから、君はまやみの事を知っているとでもいうのか?」
す―っと風力発電の風車の羽が動きを止めた。
「知っているとしたら? あなたはどうするの? 私からまやみさんの消息を問いただすの?」
「できることなら……」
「そう、でもあなたはリスクがあることも、もう知っている」
「ああ、多分な」
「クリスマスの夜、サンタクロースは子供たちにプレゼントを届ける。もし、私がそのサンタクロースだったとしたら?」
「サンタクロース? 君が?」
「あなたにプレゼントを渡すことが出来るとしたら?」
プレゼント?
だが、そのプレゼントを受け取れば彼女はとは、もう二度と出会うことはなくなるのかもしれない。
それでも、まやみにまた会うことが出来るのなら……。
それとも、まやみの面影を毎年見ることが出来る事を選ぶのか?
「もう、こんな時間。私もうそろそろ帰らないと」
ゆっくりと、また風力発電の羽が動きだした。
その時また「カノン」が僕の耳に聴こえてくる。
厳かで、静かにその曲は雪の舞う空から降り注ぐように僕を包み込む。
雪の一粒一粒が天使の様に僕に降り注ぐ。
「教えてくれ。まやみの事を」
その重い口は開き、声となり彼女に届いた。
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