第27話

501階層に降りて思ったのが、天井の低さだ。それまではドラゴンが相手だから天井は高かった。しかし、今は5メートルほどしかない。もしドラゴンが出てきたら、天井の低さが嫌になるだろうな。

今の俺のレベルは419。今日から3ヶ月ダンジョンに篭るわけだけど、どれだけレベルが上がるか楽しみだ!


「やっぱり龍人か」


少し進むと、前方から1匹…いや、龍人というくらいだから1人と呼称した方が良いのかな。とにかく、1人の龍人が現れる。龍人は俺に気づくと、走ってきて距離を詰めると右拳で殴ってくる。俺はそれを左に避けながら、カウンター気味に腹を殴った。そして呻きながら腹を抑える龍人の頭を右足で蹴り、首の骨を折る。龍人は素材や命石を遺して消えた。


「やっぱり人型が相手の方が闘いやすいな」


元の世界でも格闘家として人と闘ってきたし、モンスターよりも闘いやすい。今までも楽しかったけど、この階層からは、さらに楽しめそうだな。

その後も俺は階層を進んで行き、599階層に着いた。目の前にある階段を降りれば600階層だ。


「この下にはヤバイ気配はないな。ダンジョンマスターはいないだろう」


以前、感じたダンジョンマスターの気配は感じない。まだ最深部ではないんだろう。そう考えて階段を降りる。


「ふむ、龍人だな」


前方に出現した龍人を見て呟く。今回は俺から攻めるか。

俺は龍人との距離を一気に詰めると、右拳で顔を殴る。しかし俺の拳は龍人の左手によって阻まれだ。さらに龍人は俺の拳を握り潰そうとしてくる。


「面白い攻撃をするじゃないか!」


俺は左手刀で龍人の左前腕を切断する。龍人は驚いて距離をとった。しかし、この隙を見逃さない。俺は距離を詰めると、右前蹴りで腹を蹴る。さらに避けそこないバランスを崩した龍人の顔を蹴り上げて首の骨を折り、殺した。


「よし。倒せたな。ドラゴンの力はあるかもしれないけど、レベルを上げて挑めば、そこまで苦戦するほどじゃないな。…ただ、油断はできないな」


自分の右拳を見ながら言う。龍人に握られてすぐに相手の腕を切断したけど、俺の右拳は骨が折れて変形していた。ちなみに痛みはない。戦闘中に痛みを感じていては支障をきたすと考えて、経絡を圧して痛覚を遮断しているからだ。

とにかく、こんな時は回復薬、そして自然治癒力の強化だな。

まずは回復薬を飲む。そして右拳に気を集中させて自然治癒力を高める。

十数秒後、右拳は完全に回復した。


「ドラゴンの力を持っていると言われるだけある。油断は禁物だな。さて、そろそろ帰るか」


帰り道の時間を考えると、そろそろ帰る方が良いだろう。何か瞬間移動のような魔法はないのかな。いちいち走って帰るのが面倒になってきた。その辺もルミンさんか、タイミングが合えばキーサに聞いてみるか。


「ただいま帰りました」

「お帰りなさい!」


ギルドに戻った俺をルミンさんが出迎えてくれる。


「今回はどんなモンスターが現れたんですか?」

「モンスターと言っていいのか…龍人でした」


ルミンさんは不思議そうな顔をする。


「龍人、ですか?」

「知らないですか?ドラゴンと人のハーフみたいな見た目なんですけど」

「そういうモンスターも種族も知りませんね」

「そうですか。キーサの住んでいた世界には、そういう種族がいたそうです」

「では人族や魔族みたいに種族なんでしょうか?」

「それは俺にも分かりません」


この世界での龍人の立ち位置は分からない。


「それじゃあ龍人の命石と素材の換金をしてもらえますか?」

「分かりました」


龍人の命石と素材は無事に換金できた。初めての命石と素材の筈だけど、すぐに換金できたのは凄いな。普通は値段をつけるまでに時間がかかりそうだけど。まあ、すぐにお金に変えれたから良しとするか。


「これから、またダンジョンに篭るんですか?」

「その事と関係してるんですけど、魔法使いのルミンさんに聞きたい事があるんです」

「何ですか?」

「瞬間移動ができるような魔法ってあるんですか?」

「瞬間移動、ですか?」

「はい。今回はダンジョンの600階層まで行ったんですけど、そろそろ地上に帰るのが億劫になってきたんです。時間がかかるし、100階層より上は弱いモンスターばかりだし…もし瞬間移動ができたら、戻って来るのが楽になるじゃないですか」

「確かにそうですね…んー、瞬間移動ですか………」


ルミンさんは一所懸命に考えてくれている。


「…思い出せないです、ごめんなさい」

「いや、いいんです」


魔法使いのルミンさんが思い出せないのなら仕方がない。


「ですが、図書館に行ってみてはどうでしょうか?あそこには魔法の本が沢山あります。もしかしたら瞬間移動の魔法が載っているかもしれないですよ?」

「そうですね…分かりました。図書館に行ってきます」

「あ、今から行っても遅いですよ?図書館は夕方には閉館しますから」


そう言えば、もうすぐ夕方だったな。うん、明日、図書館に行こう。

それから図書館の場所を記した地図を貰い、宿に向かった。


翌朝。俺はすぐに目的地の図書館に向かった。図書館は3階建ての大きな建物だ。


「大きいな。…ん?あれは」


図書館に近づくにつれて、出入口に女性が立っている事に気づく。そして、その女性はよく知っている人物だった。


「ルミンさん、どうしてここに?」

「おはようございます!今日は休みだったので、タロウさんの手伝いに来ました」

「休日なのに良いんですか?」

「はい♪」

「ありがとうございます!」


すごく嬉しい。ルミンさんと2人きりは初めてかもしれないな。

それから図書館に入り、ルミンさんに案内されて魔法書を見つけ、テーブル席に行って読み始めた。


「…早いですね」

「何がですか?」


読み始めて数分後、ルミンさんが俺に言ってくる。


「読む事がです。普通はそんなに早く読めないですから」


確かに俺は1ページを3秒ほどで読んでいる。ルミンさんは俺よりは遅い早さだ。


「元の世界で早く読む事は練習してましたから。早く読めば時間の短縮に繋がります」

「こういう面でも超人なんですね」

「ハハハ、そうですね」


本当の事なので肯定する。俺が超人と呼ばれたのは、格闘技で勝利し続けたからだけではない。勉学や他のスポーツなど、あらゆる面で人を超えていたから超人と呼ばれていた。こういう異世界を知った今では、超人と呼ばれて、いい気になっていたのが恥ずかしいけどな。


「うーん、歴史の本を見ていたら瞬間移動の記述がありました」


1時間ほど経った時、ルミンさんが言った。


「本当ですか?!」

「はい。でも使った人は特殊ですね。王様直属の魔法使いとか、あと思い出したんですけど魔法使いの始祖とか…」

「魔法使いの始祖、ですか?」

「この世界に魔法をもたらした人ですね。その人のお陰で魔法という便利な技術が普及したのだと考えられています」

「…信憑性はあるんですか?」

「分かりません。そう信じられているだけですからね。タロウさんの世界でも伝説上の人物とかいましたよね?」

「実在したかは別にして、いましたね。…成程、信じるも信じないも自由、そういう存在ですか」

「はい」

「それなら俺は信じます。瞬間移動ができる可能性が見えてきますから」


自分で確かめていないんだから頭から否定してはいけない。もしかしたら、そういう存在が本当にいたかもしれないからな。そして信じるなら、瞬間移動の魔法はある、という事になる。


「その人は、どういう風に瞬間移動を使ってたんですか?詠唱とか魔法陣とか」

「無詠唱、魔法陣も無しですね。ただ魔力の消費が多いみたいです」

「それなら俺には難しそうですね。本職の魔法使いと違って魔力は少ないですから」

「そうですよね………やっぱりキーサさんに相談するのが良いと思います。キーサさんは魔法使いとして最高ですから、何かしらの対策方法を思いつくかもしれません」


確かにキーサなら何かしらの対策ができるかもしれない。


「…ごめんなさい。本当なら私が役に立ちたかったんですけど」


ルミンさんはそう言って悲しそうな顔をする。


「そんな事ないですよ。瞬間移動の魔法が存在した可能性がある事を見つけてくれたのはルミンさんですから。俺は感謝してますよ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


うん、やっぱりルミンさんは笑顔が可愛い。


「それじゃあ、今日はキーサさんの所に行くんですか?」

「いえ、キーサの居場所が分からないし…分かってもルミンさんと一緒にいたいですね」


せっかくの休日を俺のために使ってくれたんだからな。何かお礼をしないと気が済まない。


「わ、私と一緒にですか?!」

「はい。ルミンさんが迷惑でなければ」

「迷惑じゃないです!」

「それなら今日は2人で楽しみましょう!」

「はい!」


そうして、今日はルミンさんと遊ぶ事にした。と言っても、ダンジョンに篭りっぱなしで街の名所を知らない俺にルミンさんが名所を教えてくれるといったものだったけど。

そんな楽しい時間も過ぎて、夕方になった。俺とルミンさんはギルドの前に着いた。


「今日はありがとうございました!楽しかったです!」

「こちらこそ楽しかったです。また、一緒に出かけましょう」

「はい♪」


思わず誘ってしまったけど、ルミンさんは本心から承諾してくれた。良かった。それはちょっと…なんて言われたら落ち込んでしまうかもしれない。

さて明日はキーサに瞬間移動の魔法を聞きに行くか。でも、どこにいるのか分からないんだよな。


「あら、タロウとルミンじゃない。2人でどうしたの?」


声をかけてきたのはキーサだった。

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