第26話
「ふう。なんとか無事に帰れたな」
ダンジョンから地上に出てホッとする。
「ダンジョンマスターの事は報告する?」
「そうだな…会話の内容は俺達への興味だし、今までも地上に何も影響を与えていないんだから黙っておくか?」
「でも、もしダンジョンマスターの存在がダンジョンに影響しているとしたら、それを倒しても大丈夫か聞いておいた方が良いんじゃないか?」
「お前…倒す気なのか?」
ゼルスに聞かれた。
「え?倒す気はないのか?悔しいだろ。あんな手加減された上で負けたら」
「そうだけど…勝てる見込みはあるの?」
「ひたすらにレベルを上げて強くなる!やるべき事はそれだけだ。あとは自分の弱点を補う方法かな」
「お前に弱点なんてあったのか?」
「やっぱり遠距離かな。対策方法は言わないけど」
「それは当然だな。切り札は隠しておいた方が良い。そうか…タロウはあれを倒そうと考えてるのか?」
「ああ、一緒に倒そう!」
「そうだな…よし!倒すか!」
「そうね。あんな簡単に負けたままっていうのも嫌だし」
「もっと強くなって3人で挑めば絶対に勝てるよ!」
ダンジョンマスター、今度闘う時はお前が負ける番だ!
それから俺はゼルスとキーサと共にギルドに向かった。目的はダンジョンマスターの事を報告するため。
「あれ?今日は早かったんですね」
ギルドに着くとルミンさんが声をかけてくれる。
「いや、今日はギルドマスターに報告したい事があるんです」
「…分かりました。少々お待ちください」
ルミンさんの言葉から数分後。ルミンさんはギルドマスターとの面会を取り付けてくれて、面会する事になった。
「今日はどうしたんだ?この世界で最強の3人が俺に用事だなんて」
ギルドマスターが聞いてくる。ちなみに、この部屋には俺、ゼルス、キーサ、ギルドマスターの4人しかいない。
俺達はダンジョン500階層で遭遇したダンジョンマスターという存在の事を話した。
「そんなモンスターがいるのか。いや、ダンジョンマスターなんだから、モンスターではないのか?」
「聞いた事がない存在ですか?」
「ああ、今までの文献にも載っていない。まあ、500階層までも行った事がないからな。ダンジョンマスターというものに遭遇する事すらなかったんだろう」
「ではダンジョンマスターは倒してしまっても問題はないですね?」
俺の言葉にギルドマスターは驚く。
「倒す気なのか?!」
「まだ無理ですけど…強くなり、3人で闘えば勝機はあると考えています」
「…そうか。しかしマスターというくらいだからダンジョンに何かしらの影響を与える存在かもしれない。言葉を話すというのも不思議だ。まずは王様に相談してみよう。その結果が出るまではダンジョンマスターに遭遇しても殺すな」
「逃げる事に専念した方が良いという事ですね?」
「そうだ。お前達ほどの強さがあれば、逃亡という選択肢はとりたくないかもしれないが」
「いや、大丈夫ですよ」
ダンジョンマスターは最深部で待っているような言い方をしていた。最深部が何階層かは知らないけど、そこに至らなければ大丈夫のはずだ。
「でも、できれば闘いたいな」
「お、おい!?」
ゼルスの言葉にギルドマスターは狼狽える。そんなに心配しなくても、俺達では、まだまだ勝てないんだから大丈夫だよ。
その後、少し会話をして俺達はギルドマスターとの面会を終えた。
「さて、これからどうする?」
「勿論、レベル上げだ。ただ、1度は一緒に500階層に行った方が良いかもしれないな」
「そうね。またダンジョンマスターに遭遇するかもしれないし」
「そうだな。それじゃあ行くか。その前にルミンさんに報告してくるよ」
「わざわざ報告するのか?」
「ああ。好きな人には好印象を抱いておいてもらわないとな。無関心になられるのは辛い」
ゼルスの言葉に俺がそう返すと、ゼルスとキーサに笑われた。何かおかしい事を言ったのか?
「それじゃあ、またダンジョンに篭るんですね?」
「はい」
ダンジョンに行く事をルミンさんに報告する。ちなみにゼルスとキーサはギルドの外で待ってくれている。
「今回、どうしてギルドマスターに会われたのか、その事は教えてくれないんですか?」
「はい。ただ、ギルドマスターから喋っても良いと許可が下りれば説明しますけどね」
「なんだか大変そうですね。心配ですけど、タロウさんを信じてます!」
「はい!信じてもらえると、俺も安心して行けます。今度は3ヶ月ほどで帰ってきます」
「早いですね」
「早くルミンさんに会いたいですから」
「な!?」
「それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい♪」
顔を赤くしたルミンさんに見送られてギルドを出る。そこにはゼルスとキーサがいた。
「お前…女ったらしか?」
「なぜ!?」
合流したと同時にゼルスに言われてしまう。
「いや、今の会話を聞いてたら、そうとしか思えない」
どうやら2人はレベルアップしている、常人離れした聴力を持っているらしい。
「女ったらしは言い過ぎだとしても、露骨過ぎないかしら?」
「好きなんだから、しょうがない」
俺の言葉に2人は呆れる。
「まあ良いわ。それじゃあダンジョンに行きましょうか」
「ああ!」
そうして俺達はダンジョンに到着し、一気に499階層に行った。
「さあ、行こうか」
俺達は意を決して500階層に降りる。さて、何が出るか…
降りた時は何もいない。これは他のボス部屋と同じだな。
俺達がドキドキしながら待っていると、空間の中心に人が現れた。でもダンジョンマスターとは違った。
「ダンジョンマスターとは違うみたいだけど…あれは何者なんだろう?」
ゼルスの疑問ももっともだ。中心に現れた人は身長が2メートルほどだ。しかし人族でも魔族でもない、顔はドラゴンと人を合わせたような感じだ。尻尾も生えている。
「…もしかして龍人?」
「キーサ、知ってるのか?」
「ええ。私のいた世界には人族と魔族以外にも種族がいたんだけど、そこの龍人という種族に似ているわ」
「龍人か。強いのか?」
「人族の知恵と技術、それにドラゴンの魔力や体力を持っているから、強いわよ」
「そうか!楽しみだ!」
「お前は本当に戦闘馬鹿なんだな」
ゼルスに苦笑いされてしまう。でも自覚はある。元の世界で俺は戦闘中毒者と呼ばれた事があるほどに、闘いが好きだからな。
「それならタロウ、お前に任せる。危なくなったら助けるから、安心して闘ってきてくれ」
「おう!」
俺に龍人との戦闘を譲ってくれるらしい。
「行くぞ!」
俺は言うと、龍人との距離をゆっくりと詰めて行く。しかし龍人は俺に向かって走ってくる。その速度は速い。龍人は俺の近くまで来ると、殴ってきた。俺は拳を避けると、逆に龍人の顔を殴る。拳は龍人の顔に直撃し、龍人は吹き飛ぶ。しかし起き上がると、今度は走って来ずに右掌から電気を出すと、それを剣の形にした。
「雷の剣…か」
ゼルスの呟きが聞こえる。
魔法で剣を作れるのか。厄介だな。
龍人は雷の剣を振りかぶって斬りかかってくる。
「まあ、厄介って言っても、俺みたいなの以外にだけどな」
キーサの協力のお陰で雷を自然エネルギーとして捉え、吸収する事には成功している。俺は龍人の雷の剣を持つ手を掴み、雷を吸収する。龍人は驚いた表情をする。そんな感情があるのか。
その隙を逃さず、龍人の腹に内壊波を放つ。龍人はよろめき、両手で腹を抑えながら膝立ちになる。そこを左脚で回し蹴りを頭に放った。龍人は俺から見て右に飛んでいき倒れた。直後、霧になって消える。跡には命石と素材が落ちていた。
「やったな」
「ああ。これが本来の500階層のボスなんだな」
「私達でも勝てそうね」
「絶対に勝てるな」
キーサの言葉を俺は肯定する。俺が勝てたんだから、ゼルスとキーサも勝てて当然だな。
「この感じだと、500階層以降に出現するモンスターは龍人がベースになりそうだな」
「でもドラゴンより見た目は弱そうだけどな」
「甘く見ない方がいいわよ。人の肉体にドラゴンの力を濃縮しているようなものだから。肉体も人のものとは違って強いし」
「そうか。それじゃあ、油断しない方がいいな」
「え?ゼルス、どこに行くんだ?」
ゼルスが501階層に続く階段を降りようとしているのを見て声をかける。
「ここの龍人はタロウが倒しただろ?それなら、この階層に用は無い。俺も早く龍人を倒したいからな。お前達は行かないのか?」
「勿論、行くわ」
「ああ、行くぞ」
その後、俺達は501階層に降りた。連続して降りるとモンスターに遭遇する確率が下がるから、1時間ほど空けて、ゼルス、キーサ、俺の順に降りた。
さて、龍人以外にもモンスターがいるのか、それとも様々な特徴を持った龍人がいるのか、楽しみだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます