おばあちゃん

露薫

第1話

いやだ

泣きたいのに泣きたくない

ひとりでどうしようもなくて

とりあえずスマホをいじってる


お風呂からあがって

めずらしくパパからの着信

メッセージまで残ってて

気づき次第折り返すように


パパとの電話は淡々と

おばあちゃんの危篤を知らせるもの

倒れたおばあちゃんは今日が山場だって

ママにかわるといわれ

少しの静寂

正直信じられなくて

でも、泣きそうになって鼻をかむ

かわったママは鼻声


明日の朝に岩手に帰る

うん、

あんたは、、、

うん、

ごめん、ママは無理だ

パパにかわる

うん、


短い応答

十分だった


父から、黒のスーツを持ってくること

明後日までに岩手にいってほしいこと

事務連絡があった


ママとの会話で流れかけた涙は

なんだか乾いてしまって

でも、泣きたくて

どうにかしたいのに

どうにもしようがなくて

あーーーと大声をだし

枕に頭を埋めて

でもどうにもならなくて


明後日帰るために

各所に連絡をしなければならない

はと思い立つ

でも

祖母が死ぬので?信じたくない

まだそんなこと決まってない

お葬式のため?縁起でもない

理由が見つからなくて

とりあえず連絡は保留


やろうと思って広げた勉強も

そんな気になれない

いつ連絡が来るかわからないから

寝るのもいや

だからといって

ゲームで遊ぶ気になんかならない


休みの間にやりたいことはたくさんあって

ほしいものもいっぱいあって

ママとパパに

おねだりもいっぱいしようと思ってた

それどころじゃないんだろうなっていう

少し自分勝手な気持ちも出てきて

でも

そんなこと思う自分が許せなくて


おばあちゃんは

元々からだが弱かったし

そんなに長生きできないだろう

私より先に死んでしまう

そんなのわかってるのに

年だってわかってるのに


もっと遊びたかった

もっと会いに行けばよかった

もっと話したかった

もっと写真に残せばよかった

もっと






気持ちの整理をしたくて書いてたはずなのに

ああすればよかったって考えてるうちに

涙が出てきて

枕に顔を押し付けて

言葉にならない何かを発しながら

泣いた

こんな泣き方は保育所以来

鼻がつまるから口を開けて

止まらない嗚咽をあげながら

ただひたすらに泣いた


泣く前までは

さっきまで流れてた平穏との差に

何が起きてるんだか正確に

飲み込めてなかったみたい


でも

おばあちゃんはまだ死んでない

今日が峠でもまだ息をしてる

泣くのはまだ早い



実家から離れて暮らしていることが

こんなに辛いと思ったことはない

きっと

ママも同じことを思って荷仕度をしている

でも

ママはまだいい

パパや弟が一緒にいてくれる

私は一人

遠くで泣きわめくことしかできない


こんなことなら、

昨日ちゃんと寝とけばよかった

今日はまだ長い



人生ではじめての

身近な人の危険は

ティッシュ一箱じゃ足りなかった



先日授業で扱った死は

もう少し他人事で無機的だった

本当の死は

寂しさと悲しさともやもやと涙と鼻水で

ぐちゃぐちゃ

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