13.「石橋を叩いて渡る」

石橋を叩いては渡らない

叩いたが為に渡れなくなってしまうかもしれないから

慎重さは必要 でもぶっつけ本番というのも悪くはない

その橋を渡れるか渡れないか試してみる そんな度胸を据えて橋の袂に立つ


橋の向こうに見えるは人影 朧げで幻のよう

そんな人影が妖しく手招きをする それに応えて石橋を渡る

一歩目は大丈夫 二歩目も何とか 三歩目で前を向いて 四歩目では空を仰ぐ

渡り切る頃には 人影の正体もはっきりする


石橋を叩いてばかりでは 向こう側で手招く人影に気づけない

叩けば叩くほど 橋は脆くなるのではないかと思えてならない


叩かずに渡って たとえそれで落ちたとしても文句は言うまい

それまでの人生だったと割り切り もうない人生を持て余すだけ

でも橋を半分渡り切った所には 足元に虹が架かっていて それだけでもう後悔はないと言える

このまま進んでも問題なく渡っていけそうだ・・・


当てにしてはいけないのが自分の勘 口にしてはいけないのが安心――

あと一歩という所で石橋の崩壊に遭う

落ちるまでは落ちないと 藁にも縋る思いで手を伸ばす

その先に掴むものがあるかないかは運次第 なんていう風には決めつけず きっと掴んでみせると目を皿にする

そうして掴んだ「藁」は崩壊によって露わとなった太い根 見上げる先には一本の大樹

そこでやっと人影の正体に気づく 人のように手招いていたのは この面妖な樹だったのだと・・・


「危ない橋は渡らないに限る だがもし渡るなら石橋に限らず慎重になるべきだ

叩いてみたり揺らしてみたり とにかく「石橋を叩いて渡る」べきなのだ」

などという忠告に耳を貸すべきか否か 橋の袂に立った時にそれは判る

渡るか渡らないか その覚悟を決められるかどうか 判断はいつも自分に委ねられている

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