コンビニ店員アイ

フジ・ナカハラ

1 ケイ氏のため息

「店員、おひとついかがですか」

 そんな声がかかったのは、ケイ氏が困り果てていたときだった。


 雨の音だけが寂しげにひびく深夜のコンビニで、ケイ氏はひとり、レジに立っていた。客は誰もおらず、くる気配もない。ぶあつい雲が月明かりを遮っているせいか、窓の外は深い暗闇がつづいている。そして、ケイ氏の心も、それに負けず劣らず陰惨としていた。

 ケイ氏は、このコンビニの店長だ。これで十日連続の夜勤である。最後に休んだ日を思い出せないくらいに、ケイ氏は働き続けていた。

「すいません、バイト、今月いっぱいでやめます」

 さきほど帰った彼の言葉が、ケイ氏の憂鬱の原因だった。ただでさえ人手が足りないのに、またひとりバイトがやめるといってきたのだ。数ヶ月前に長年働いていたパートがやめてからというもの、人が減るいっぽうだった。そのパートの抜けた穴は大きく、他のメンバーの負担が増してしまった。その結果、次々とバイトがやめていったのでる。

 はああ、とケイ氏は長いため息をついた。そんな中なんとか続けてくれていた彼が、突然やめると言いだした理由はわかっている。先日、接客態度がわるいと小言をいったのがいけなかったのだ。その時の彼は、謝るでもなく、ただケイ氏をにらみつけるだけだった。

「店の状況も知っているだろう。もう少し先にのばせないか」

 そう頼んでも、彼は聞いてくれなかった。それどころか、できればもっと早くやめたいなどといって、ケイ氏を困らせる。それは、ケイ氏の小言に対する彼の仕返しだった。しかし、ケイ氏はそんな彼に文句のひとつもいえなかった。今月末といわず、次回からこなくなるかもしれないからだ。実際、彼の前にやめたバイトは、無断欠勤のあとそのまま連絡がつかなくなっていた。

 求人は出し続けているが、まったく反応がない。もしかすると、ブラックだというが広まっているのかもしれない。

 ケイ氏がそんなことを考えていたとき、電話が鳴った。

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