第17話 みんなだいすき粉塵爆発とクレープともんじゃ
庭に煙が立った。
いや、違うかこれは。なんだこれ粉っぽいな。
「いやはや。なかなか上手くいかぬでござるな」
「自分としては、もっと簡単に出来るものと思っていたのですが。何かあるんでしょうか。コツとか」
これこれ若者達。昼間っから火遊びをしてはいかんぞ。
「火遊びでは無いでござるよ」
じゃあなんだよ。この煙? なんだ、粉か?
「小麦粉ですよ。やはり、現地産では上手くいかないものなんですかね」
それは分かるわ。何やってんだよ。
「みんな大好き粉塵爆発の時間でござるよ。やはり、薄力粉あたりでないと難しいのではないかと」
粉塵爆発って、炭鉱とかで起きるあれか。好きだよなお前ら。
「男の子の浪漫だと思いますよ」
「敵に囲まれ絶体絶命! おもむろに煙幕を張って敵を撹乱。『ここは拙者に任せてお主らは逃げるでござる』! 『ムッハハハ! 煙幕ごときに何が出来るか!』『ただの煙と思うてか! 見よ! これぞ粉塵爆発微塵がくれの術!』爆発四散大勝利! というのをやりたいのでござるのよ」
そらずいぶんと、機会が限定される浪漫だな。
「そうでなくても、その場にある物でピンチを解決というのは、男の子だったら誰しも憧れる所でしょう」
冒険野郎とかAチームみたいな感じだな。
「時代が何世代か違うでござる」
「存在は知っていますが観たこと無いドラマですね」
トレンディドラマとか見るなら、海外ドラマ見ろよ。面白いぞ。
「申し訳ありませんが、自分はトレンディドラマという代物も観たこと無い世代なんで」
「拙者の所はテレビは無いでござるがな」
それは暇を持て余しそうだな。
「代わりに映像放送用水晶球なんかが普及してるでござる」
「変な風に進んでいますね」
「人気は演劇と剣闘中継でござるな。『コロッセウム業界で一番シビれる男』とか演劇にも出て大人気でござるよ」
そういうのは、こっちと全然変わらんな。
「娯楽の方向性はどこも一緒なんですね。ということは、そちらでも粉塵爆発でどかーんという劇がやっていたりとかですかね」
「粉塵爆発そのものは無かったと思うでござるが、似たようなのはあるでござるよ」
本当に好きだよなお前ら。
「なので、是非とも再現したいのですが何度やっても上手く行かず」
「小規模燃えるくらいは出来るでござるが、景気よく大爆発とはいかんでござる」
所詮は小麦粉なんだから、大した爆発もしねえんじゃねえの?
「上手く行っても、威力ある爆発させるためには、馬車に満載するくらいの小麦粉が必要ですねこれ」
実用性皆無だな。
「小麦粉を大量に備蓄した場所に相手を誘い込むくらいしか、手は無いでござるなぁ」
そこまでやるなら素直に火薬使えよ。
「拙者のところは火薬は魔法ジャンルなのでござるよ」
つっても、使う分にはいいじゃねえか。
「爆発物取扱免許が魔道士課程か錬金術課程でしか取れないのが致命的でござる。無免許使用は即座にお縄でござる」
「厳しいところですね」
素直に必須課程履修しろよ。
「先立つものと時間があればやるでござるがねぇ」
「自分のところは火薬は存在しないのか。ツテを駆使しても手に入らないんですよね」
それじゃ、素直に別のモンにしたらどうだ。
とりあえず、小麦粉は没収な勿体無い。
「別のものですか。塩素系洗剤と酸で毒ガス発生とかですか」
「毒ガス系は室内でないと効果が薄いでござるよ。風上に立てるなら、いっそ粉末系の毒薬の方をオススメするでござる」
やっぱ、ニンジャはその辺は詳しいな。
粉物だとなんだろうな。簡単に出来るとなるとやっぱお好み焼きかクレープもたまにはいいな。
「クレープとか、お主のイメージに合わんでござるよ」
炒めた野菜とかソーセージとか巻くと美味いんだよ。やってみろ。
「美味しいなら作って下さい。そもそも、自分一応勇者なんで、毒とかあまりいい顔されないんですよね」
勇者なら剣と魔法で戦えよ。
クレープか。とすると、具の方をどうするかだな。
「ちょっと時々、ずるしたくなるじゃないですか。確か、冷凍シーフードが残ってましたよ」
お前、だんだんゲームチャンプに毒されて来てるぞ。シーフード炒めか。まあまあだな。
「気をつけます。後、野菜炒めとなるとキャベツですか」
「粉物キャベツだと、お好み焼きがいいでござるなぁ」
お好み焼きはこないだ作ったばっかだからなぁ。
「拙者は食ってないでござるよ」
おれは食ったんだよ。
「自分もいただきました」
「お主らは自分さえ良ければ良いのでござるか。毒ぶちまけるでござるぞ」
やめんか。
つっても、またお好み焼きってのも飽きが来てなぁ。何か別のはねえかな。
「自分はクレープを食べる腹になっているのですが。後、何か切り札になる武器のアイデア下さい」
粉塵爆発つったら石炭なんだがなぁ。
「石炭無いです」
「火炎瓶とかどうでござるか?」
普通の油だと火もつかんぞ。
「そうなんですか? 菜種油で作れないかとか思っていたんですが」
昔、過激派が灯油で火炎瓶作ったはいいが、投げたらそのまま火が消えた。って笑い話があるんだよ。
「爆発するためには、揮発している必要があるでござるからな」
油を煮立てて投げつけるくらいしか無いな。
「それなら、火炎放射器の方がマシでござるな」
「それなら火炎放射器にしましょうよ」
「火矢当てられて火だるまになるのが見えるでござる」
米軍も藪焼くついでに隠れてる奴も焼いてるって感じだったな。
「また見てきたみたいな事を言う」
言っちゃいかんか?
「いけなくは無いと思うでござるがねぇ。それで、お好み焼きでござるが」
なんか、ここでお好み焼きにするのも負けた気がしてイヤだな。
「無理に勝ち負け考える事じゃないと思いますよ。でも、自分はクレープ腹です」
連呼されるとクレープもイヤになってくるな。
「そこでボクの出番だね!」
小麦粉の煙を二つに裂いて出てきたのはトコヨ荘の古株のテイさんだった。
「ボクとしては思うところがあるんだ。粉塵爆発や火炎瓶よりも、テルミット反応を取り上げるべきだと」
「テルミット反応……ってなんですか?」
「酸化金属粉末とアルミニウム粉末を反応させたものだね。物凄い高熱が出て大爆発。金属の溶接とかにも使われているという素晴らしい科学現象だよ」
「アルミニウムあるところは限られるでござるよ」
「自分のところには無いですよ」
「無ければ持っていけばいいじゃないかなぁ。後、マグネシウムでも出来るね。暴発しやすいみたいだけど」
それなら、普通に火薬作って持っていくんでいいんじゃないっすかね。
「後は、鉄も粉末化すれば燃えるよ。微細にまですれば粉塵爆発も起こりうるよ」
「鉄の粉末化が大変ですね」
「分解的な魔法でちゃちゃっと作れないでござるかね」
そんな便利な魔法があるなら、そっち使ってるだろ。
あー。魔法と言えば。
「何かいいアイデアでもあるんですか?」
優等生の置き土産のベビースターがあった事を思い出した。
「ベビースター。シーフード。キャベツ。粉物……ということは、もんじゃ焼きだね」
「この間、貧乏たらしいとか言ってたじゃないですか」
いいじゃねえか。実際貧乏なんだからよ。
「あちゃー。これはいい返しでござるなー」
「なんだか腹の立つ言い方ですね」
「そのように言っておるでござるからな」
もんじゃの具は後は何だ? 天かすあたりか。
「ソーセージを入れても美味しいね」
「ジャンク系のものならなんでもいけそうでござるな」
実は優等生ももんじゃ焼き食いたかったんかねぇ。
「どうですかね。いつか聞ければいいんですが」
なんか、あいつの事だからひょっこり帰ってきてそうではあるな。
「そういうこと言っていると、台所でスタンバってたりするでござるよ」
「噂をすれば影がさすって言うからねぇ」
まあ、それならそれでいいけどな。
うーし。それじゃホットプレート出すか。
「ホットプレートがあるなら、拙者いつかたこ焼き食べたいでござる」
お前で材料集めるんなら好きに作れよ。
「拙者のところのタコはレベルが高くて倒すのに手間なんでござるよ」
「モンスター以外の選択肢は無いんですかね」
「欧米ではあまりタコを食べないって言うから、そういう事じゃないかなぁ」
スペイン料理とか思いっきりタコ入ってるっすよ。
「食べないのは内陸部だけ。と言う話は聞いたことがありますよ」
昔は、タコが畑に登ってきて大根食ったりしてたらしいぞ。
「どんな妖怪ですかそのタコは」
「昔、住民でタコの人がいたけど、大根食べてたっけかなぁ」
あいつは生魚しか食わないとか言ってなかったでしたっけ。
「色々とケッタイな人がいたんでござるなぁ」
お前もそのケッタイの一人だぞ。
「ややや。拙者はまともな部類でござるよ」
「荘内だから何も言いませんが、露出は控えた方がいいと思いますよ」
熱血くんも馴染んできたな。
「馴染まないと精神やられますよここ。ところで、自分の切り札武器ですが」
薬屋とホームセンターで火薬の原料買ってこい。
「先立つものが無い場合はどうしましょうか」
「そこは拙者と一儲けやってみるのはどうでござろうか。今なら、ちょっといい話がござるでござるよ」
「いいねえ。ボクも一口乗らせてくれないか」
まあ、ほどほどにしておけよ。
おれはくわえタバコで台所に入って、道具を出して。
まあ、優等生がいたりはせんわな。
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