第13話 ウサギと馬とラーメン予告編

 煙草が切れた。


「お、これは先輩殿。良い所に来られたでござるな!」

 買いに行こうと思ったら、全身タイツのニンジャがいた。腰にはハサミが刺さっている。


「拙者、ちょいと頼みたい事があるのでござるよ。宜しいか?」

 お前、最近見なかったが、いなくなったのかと思ったぞ。

「素材集めで迷宮マラソンしてたのでござるよ。その間、三回程神殿のお世話になったでござるがな」


 お前何回死ねば気が済むんだよ。

「死も拙者らの所では一つの状態異常に過ぎぬでござるよ。それで、これを見るでござる」


 どれどれ、ってお前。生のウサギの死体こんなにどうすんだよ。

 ちょっとお巡り呼ぶから待ってろ。

「いや、違うでござるよ。たしかにこれはウサギの脚でござるが、そういうのでは無いでござるよ」


 じゃあなんだよ。こんなグロいの。

「ウサギの脚と言えば、幸運値上昇のアイテムでごさるよ。これを集めるためにポーパルバニーを延々狩り続けたのでござるが」


 幸運値ねぇ。

 運の強さとか数値になるもんかね。

「拙者の所では数値に出るのでござるよ。それで、これを使って一儲けをしようというのでござる」


 そら勝手にやれよ。

「いやいや。これを拙者の所で売り買いしても大した額にはならんでござる。が、こちらには幸運値の高さで大儲け出来るものがいくらもあるでござろう?」


 で、稼いだ日本円で購入したこっちの商品を自分の所で高く売るってアレか。

「で、ござる。名案でござろう」


 こういうのは、大体失敗するのがパターンだぞ。

「チャレンジ無しに何事も成し遂げないでござる。で、お願いでござるが、拙者に代わってちょいとこれを使って公営ギャンブルで人稼ぎしてもららいたいのでござるよ」


 自分でやれよ。

「拙者、外出すると歩いているだけで官憲が駆け寄ってくるでござるよ」

 お前、全身タイツが薄過ぎんだよ。全裸同然じゃねえか。

「故に協力者が必要なのでござるよ」

 だから服着ろよ。

「ニンジャのパブリックイメージがあるのでござるよ」


 パブリックイメージって。

 裸の方が強いとかそういうのがあるって、前いたニンジャが言ってたぞ。

「拙者、得物はさみ使ってるから、普通に裸と変わらんでござるよ?」

 じゃー、なんで服着ないんだよ。

「趣味でござる」

 死ね。


「いやいや。裸武器持ちは皆、趣味でやってるでござるよ多分。ニンジャスキルの使用条件が全裸素手でござるからな」

 ふざけんな死ね。


「先輩殿も一度やってみるが良いでござるよ。世界が変わるでござる」

 変な趣味勧めるんじゃねえよ死ね。


「いやいや。最初は直穿きスパッツでござるよ。上着は大きめのTシャツなら自然に見えるでござる」

 具体的すぎる指示すんなよ死ね。


「スパッツの適度な締め付けと、外界の空気を直接感じる開放感は、世界が拙者のものになったかと錯覚するほどでござるよ」

 いらんわ死ね。


「その気になったらいつでも言って欲しいでござる。いくらでもお教えするでござるよ」

 黙れ死ね。


「で、金儲けの話でござるが。具体的には何がよかろうか。やはり競馬かパチンコでござるか?」

 パチは最近収益悪すぎてなぁ。

「そうでござるか?」

 一日粘っても十万とかそんなもんだぞ。無くなる時は一瞬のクセに。


「十万でも十分でござるよ?」

 山分けすると五万だぞ。

「それは……厳しいでござるな」

 となると、競馬か競艇か競輪かオートか……。


「ここは王道を征く……競馬ですね?」

 なんだおかっぱ。途中で話に入って来て。


便所セーブに寄ったんですけどそれは」

 お前、まがりなりにも女の子が便所とか言うなよ。

「ここで女の子扱いしてくれるの、兄貴だけですよホント」

 兄貴とかやめろ。


「おかっぱ殿には申し訳無いでござるが、分け前の都合上混ぜる訳にはいかんでござるよ」

 あー、ちょっと待て。おかっぱ、お前そういや例のリセットとかあったな。

「リセットして時間戻してレース結果予知とかですか? いやー、キツいっすねー」


 無理なんかい。

「結果に影響する乱数テーブルが微粒子レベルで存在してるみたいで、毎回結果が違うんですね」

 言葉の意味は分からんが無理っぽいのは分かった。


「それでも、何度も繰り返せば良いのでは?」

「わたし運試し系統は、百回チャレンジして百回失敗するガバ運の持ち主でして」


 ほー。という事はアレか。

「ステータスオープンしてみたら、わたしの幸運値低すぎ? って具合でして、って何で立ち上がって握手する必要があるんですか?」

「ここにその幸運値を上げるアイテムがあるのでござるよ」

 これは上手く行くかもしれんな。


「ちょっと便所セーブ行ってくる!」

 おう、早く戻ってこい。


「それではやはり、金をぶっこむのは競馬でござるかな」

 だろうなぁ。タネ銭を用意しておくか。出来るだけ一発勝負がいいだろ。

「で、ござるな。ウサギの脚は効果が累積する代わりに、一回使用したら消滅してしまうでござる故」


 使うって、どうやるんだ。

「手に持って使おうと思うだけでござるが。そう言えば、拙者のところの者限定かもしれんでござるな」


 おかっぱが出来るか試す必要があるな。

「おまたせ。セーブしか出来なかったけどいいかな?」


 出来ればタネ銭用意して欲しかったんだが。

「それはそれとして、うさぎの脚を使えるか試してみるでござる」

「かしこまりっ。それで、これをどうすればいいんですか?」

 手に持って使おうと思うだけでいいそうだ。

「はい。用意スタート……ダメみたいですね」


 諦めるの早いな。

「まあ、これはお約束というやつで。おっと、五百円発見」

「ウサギの脚が消えたでござる」

 なんだ使えるじゃねえか。じゃあ、なけなしの3万円やるから競馬で稼いでこい。

「かしこまりっ」


 よーし、元気で行って来い。

「妙な発言が無ければ素直な良い子なんでござるがなぁ」

 まともな奴はここにはいねえよ。

「拙者はまともだと思うのでござるが」

 お前は特に酷い方だ。


  ・  ・  ・  ・


「おまたせ。タネ銭全部スッっちゃったけど、いいかな?」

 良くねえよ。てか、ウサギの脚はどうした。

「どうしたでござるか、突然。トイレから戻ってくるなり」

 ああ。リセットしたんか。


「ウサギの脚なんですが、使うは出来るんですが使うタイミングとか対象はランダムみたいっすね」

 中途半端な効果だなおい。


「なんで、物凄いどうでもいい事で使い果たした所でリセりました」

「拙者が使うとそんな事は無いんでござるがなぁ」

「何かバグ的な何かじゃないですかねー」


「あり得る話でござるな。それならどうすべきでござるか……」

 ニンジャが服着て稼いてくればいいんじゃねえの。

「兄貴は何をするんですかねぇ」

 文句言うならタネ銭返せよ。


「服着るのだけは勘弁してほしいでござる。ニンジャのレゾンデートルに関わるでござる」

 小難しい事言ってごまかそうとすんじゃねえよ。

「ん。今なんでもするって言ったよね」

「言ってねえでござるよ」


「ここはボクの出番だね!」


 フスマをガラッと開けて出

「リセット! リセーットッッ!」


  ・  ・  ・  ・


 お前、思いつきでリセットしてねえか?

「面倒臭いんすよ、あの人」

 それは間違いないけどな。


「絡むとクッソ極大の遅延行為されるんで、絡むのはNG」

「事情は全然分からんでござるが、苦労してるでござるな」

 で、テイさんを避けるとなると、あんま長居出来んぞ。


「ランダム出現はやめろ。繰り返すランダム出現はやめろ」

 どうすっかな。ニンジャが服着れば問題は全部解決するんだが。

「仕方ないでござるな。先輩殿が外出できるならニンジャの奥義を用いて」


「ちょっと! 今お金稼ぎの匂いを」


「リセット! リセーッッッッッッッッット!」


  ・  ・  ・  ・


 お前さ。条件反射とかでリセットしてねえか?

「あの人、面倒くさいんですよ」

 それは間違いないけどな。


「絡むとクッソ極大の遅延行為されるんで、絡むのはNG」

「事情は全然分からんでござるが、苦労してるでござるな」


 で、お前の奥義とやらは何なんだ。

「何やら先んじて言われるのは妙な気分でござるなぁ。まあ、なんとかするでござるよ」


 それならええわ。おいじゃ、出かけるとすっかね。

「かしこまりっ。そういえば、行く途中までで幸運使い果たしてしまうのですがそれは」

「拙者が持っていればそういうのは起きないでござるよ。むしろ、勝手に使われるとかどんなクソゲーでござるか」

「そういうクソゲーを何度もやって来たんだよなぁ」


 まあ、面倒だしハイヤー呼ぶか。

「ハイヤーって何でござるか?」

「デスワープ以外で使ったことないです」

 おれも使うの久しぶりだな、そういえば。


 あ、はい。ハイヤー1台。トコヨ荘まで。ああそう、タクシーね。

「タクシーをハイヤーと呼ぶ人初めて見たでござる」

「黒電話とか現役なのか。ドン引き」

 どうせ年寄りだよ、おれは。


 で、どうすんだよニンジャ。ハイヤーはいいとしても、その先でおまわり呼ばれたら同じこったろ。

「拙者潜伏系スキルを極めてるでござるので。人影があればそこに隠れる事が出来るでござるよ」

「ホモみたいですね」

 おさわりは勘弁だぞ。


「拙者もホモとかでないでござる。好みは黒髪の清楚系でござる」

 あんま近づくなよ暑苦しいから。

「努力するでござる」


 お、ハイヤー到着か。

 運転手さん競馬場まで。そりゃ、競馬場行って馬見ておしまいってワケ無いっすわ。

 はー、運ちゃんもやるんだ競馬。仕事中じゃなけりゃあなぁ、そりゃ。

 今日はどんなモンだい? はんはん、5レースは4番から流しで、6レースは7番単勝。ふんふんそれでそれで。いやぁ運ちゃん渋い所ついてくるじゃないですか。


「この人のダメ人間交渉力は本当に凄いでござるな」

「おしゃべりに夢中になった運転手は不運にも黒塗りのリムジンに追突してしまうのであった」

「そういうのやめるでござる」


 いやぁ参考になったな。運ちゃんに代わって一儲けしてくらい。

 お、競馬新聞くれんのか。そいつは有り難てえ。

 じゃ、運賃こっちな。釣りはいらねえよ。え? 運賃ちょうどか。いいじゃねえか気持ちだよ気持ち。


「いや、無事についたでござるな。ウサギの脚も一つも減っておらんでござる」

 ちゃんと隠れろよニンジャ。

「ちょっと便所チキンセーブ行ってきます」

 おい、行って来い。急がないからよ。


「それで、どうするでござるか? やはり、ウサギの脚の幸運と運ちゃんの予想を信じて」

 ウサギはともかく、運転手くもすけの言うことは参考にならんなぁ。

「割と酷いこと言うでござるな」


 運転手くもすけの言うことなんざ信じちゃあかんぞ。

「先輩のそういう所、リスペクトしたいっす」


 おかっぱの便所も終わったか。さて、どいつに賭けるかだが。

「万馬券って百倍以上のオッズでござるよな。意外と百倍以上のオッズって結構あるござるが」


 3連単とかまず当たらんぞ。

「そこでリセットがあるわけですが」

 何回もくり返しとか出来るんか。

「すっげえキツいゾー」


「というか、そうすると拙者が状況理解できなくなるでござる」

 やっぱアレか。確率低い事やるとなると、使うウサギの脚も増えるんか。


「というか、所詮は幸運値を上げるだけのアイテムでござるので。沢山使えば確率は上がるでござるが、それだけでござるよ」

「ここはちゃーんと安定チャートを組みべきですかね」


 残りは5レースか。単勝狙いの倍々が安パイかね。

「異論は無いでござる」

「固定値は裏切らないのです」

 ゲームチャンプみたいな事言うな。


「あの人は、色々な不具合をゲーマースキルで解決するバケモノなので、比べるのはNG」

 同業から見るとすげえんだなぁ。ただのクソガキにしか見えんが。


「何より有名で金持ってますからね」

「やはり金持ちは正義でござるな」


 じゃー、本日の目標値は三十万で。


「それは高すぎないでござるか?」

「ゲームチャンプが配信一回で稼ぐ額の半分以下なんですがそれは」


 じゃあもっと上げるか? リセット回数一気に上ると思うけどな。

「安定チャート最高ですね」

「拙者はこの後にも、もう一仕事があるでござるしな」


 まあ、上手く行ったら美味いメシでも食って。金が無くなったらその時考えりゃいいだろ。

「いいっすねぇ~。この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台来てるらしいっすよ」

 ああ、たまには行ってやらんとあの爺さんも干上がるかもしれんしな。


「知ってるんですか?」

 小金が溜まった時には寄るぞ。前はトコヨ荘の連中もよく行ってたんだがなぁ。

「最近はそうでもないでござるか」

 コンビニのカップラの方が安くて美味いんだよなぁ。


「これはもうわかんねぇなぁ」

 まあ、皮算用は勝ってからだな。


 わぁわぁと観客達が騒いでいる。

 床にばら撒かれた千切れた馬券を蹴り飛ばして、馬券売り場に足を向ける。

 さて、お馬さん。おれのために頑張ってくれよ。

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