明日の君と今日の僕

ソルエナ

第1話

今日、僕は死ぬ。君を守って。君は僕に守られるのを拒んだ。

僕は昔から弱くて、君はずっと強くて、守ってもらってて。男なのに守ってもらうなんて情けない話だ。でも君がそばに居てくれたお陰で僕は少しだけど、前よりも強くなれたと思う。


今まで守っていてくれたお礼として君が僕を守ってくれた様に、僕は君を守る。自分の命を掛けてでも君を守る。なんとしてでも。


君はずっと気が強くて、喧嘩も強くて。それなのに凄く優しくて。僕は君をずっと尊敬していたんだ。




「よお直太なおた!今日も元気かぁ?」

「おはようみお。今日も元気だよ。」


毎朝こんな挨拶をして僕達は学校へ向かう。

変な挨拶かもしれないけど、たったこの一言で今日君がどんな気持ちで、どんな気分なのか分かる。


今日の朝の澪は凄く楽しそうな、でも何かに少し怯えている様な、今までと違う挨拶だった。

声は明るいが、心のどこかで得体の知れぬ何かに怯えてる。君が怯えるなんて、そんなこと今までほとんど無かったから、今日は少し嫌な予感がしていた。


何気ない会話をしながら一緒に学校へ向かう。いつも通りの朝を過ごしているはずなのに、今日は様子がおかしかった。

何がおかしいかって言われたら少し難しいのだけど、親も、通行人も。君以外の誰とも会っていない。


君も誰とも会っていないのか聞くべきだったのかも知れない。でも僕は何かに聞くのを遮られている様な感覚になり、何も聞くことができなかった。


君はいつも通り、校門をくぐり学校に入って行く。

僕もそれについて行く様に歩いて行く。


玄関に入った時、やっと僕は謎の感覚から解放され、君に質問をした。


「ねえ澪。今日誰かと会った?」

「何言ってんだ?そんなん聞くまでもなく直太と会ってるじゃねえか。」


聞きたかったのはそれではない。僕は、「僕以外の」誰かと会ってないか聞きたかったのに、訂正しようと口を開こうとした時、また何かに遮られてしまった。どうしても口が言う事を聞かない。僕は謎の感覚に抵抗するのが怖くなり、それ以上聞こうとするのを諦めてしまった。


諦めた瞬間、気を失った。薄れる意識の中で、君も倒れる音が聞こえた。僕はそれを聞いた直後に完全に意識を失った。



『皆さん、いつまで寝ていらっしゃるのですか?早く起きて下さい。もうこっちはいつまで待たせられてると思ってるんですか。』


僕はこの、どこかから聞こえる謎の声で起きた。

人の声とは言えないが、機械の声とも言えない、何とも微妙な声が頭の中で響き渡っている。


「直太…?おい大丈夫か?!」


謎の声が頭の中で響き渡ってる今、君の声は非常に響く。


「ごめん澪…僕は大丈夫。」


頭から謎の声が離れるのを待ち、ふと辺りを見渡すと、正方形と思われる部屋の中に僕達を含め12人程が居た。皆混乱している様だ。


ある者は壁を殴り、ある者は泣け叫び、ある者は神に祈っている。


現実的に考えると、壁を殴った所でここの壁は剥き出しのコンクリートで作られていて、出口らしき物はなく、出られるとは思えないし、泣け叫んだ所で状況は悪化する一方。神に祈ってもこんな世の中神がいるとは思えない。


君も状況が分かっていないのか、しきりに辺りを見渡している。


『まあまあ皆さん、落ち着いて。ここの説明をするので、こちらの話を聞いて下さい。良いですか?皆さん、今すぐにでもここから出たい。そうお思いの事でしょう。ですが、ここから出られるのは限られた一人だけ。限られた一人以外の方は皆さん死んでもらいます。』


死んでもらう、と聞いた瞬間この部屋にいる僕と君を除く全員の顔が真っ青になった。ついさっきまで壁を壊そうと必死だった大男も、しきりに泣き叫んでいた小さな女の子も、ずっと神に祈っていた女も、皆みるみるうちに青ざめて行く。


『皆さまいい表情をなさいますねぇ。では、これから更に詳細な情報を言って行きますので、聞き逃さぬ様にお願い致しますね。』

『この後、皆さまには別のお部屋に移動して頂きます。そのお部屋で、まず一人死にます。誰が死ぬかは皆様に決めて頂きます。決めるルールは各部屋により違います。そのルールについてはゲーム開始時に説明するとしまして。』

『一つ、我々の想定外の出来事が起きておりまして。まあそれは置いておくとしましょう。』


「…おい!ちょっと待てよ!!死ぬってどう言う事だよ!?」


『現在質問は受け付けて居りません。今後数回質問に答える機会を与えますので、その機会に聞いて下さい。まあその機会までに生き残って頂かないと質問も何も出来ないですがね。』

『それでは皆さんには移動をして頂きます。今からドアが開くのでそちらから移動をお願い致します。そうそう、それからここから動かない、と言うのは死を意味します。まだ死にたくない方は移動をして下さいね。』


感情が伺えぬその声が静かにそう告げた後、僕達の正面が二つに割れ、その奥にはクリスマスを連想させる様な緑や赤が沢山散りばめられた部屋が薄っすらと見えた。

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