一限目-1 北条朱雀は誰よりも何らかの点で優れている
「……おい、俺にも少しは武器を分けろ、何のためのタッグだよ」
「……え? ああそれはすいませぬ、てっきりもう死んだのかと」
「死んでねーわ、しかもそいつは俺が倒した奴だからな」
「九割は私が倒したようなものでありましょう、最後の一発を当てたぐらいでドヤ顔をされましても困りますな――お、最強のレベル3防具ゲット」
「こいつ……」
「仕方ありませんなあ……ほら残りは雅継殿が取っていいですぞ」
「全く……っておい、しょぼいハンドガンしか入ってねえじゃねえか、ふざけんな」
その日もまた、俺達は流行りのバトルロイヤルのスマホゲーに興じていた。
別に俺がやりたいと思って始めたのではない、ただ左隣に座っている女子生徒が一緒にやろうと煩いので物は試しと始めてみたのではあるが……。
彼女の名前は虎尾裕美、好感度指数は70%。
黒のミディアムストレートに、少し目尻の上がった顔をしており、普通にしていれば学園トップクラスの可愛さなのだが、目立つのが嫌いな彼女は前髪を目元が隠れるまで伸ばしており、おまけに黒縁の眼鏡をかけているせいでその素性はパッと見では分かり難い。
しかも極度の寒がりで夏場以外は常に黒のカーディガンを着ているという、黒ずくめの組織以外の何者でもない彼女ではあるが、俺以外の生徒と話をしている姿を見たことがないので恐らく闇属性なだけだろう。
……余談だがカーディガンに隠れて分かり辛いが彼女の推定カップはEである、以前偶然にも彼女のパイスラを確認したので間違いない。
能力の一種ではない、ただの目撃談である。
「あっ、ヤバい、死ぬ、おい虎尾助けてくれ」
そんな事に気を取られてしまっていると、うっかり敵の狙撃を受けダウンしてしま
う。
「全く世話が焼ける相棒でありますな……よっと、ふふ、これで6キルありますよ」
「誰のせいで死にかけてると思ってんだよ……」
「まあまあそう言わずに、私が最後まで守ってトン勝ちして差し上げますから」
「人を縛りプレイみたいに言いやがって……」
これに限った話ではないが、虎尾は基本的にゲームが得意である、特にFPS系となるとその実力を遺憾なく発揮し、そして俺を手玉に取って遊ぶのである。
普通ならリアルファイトに発展し兼ねない畜生具合だが、彼女の感情マークを見るといつも嬉しそうな顔を見せているので悔しいが何も言えなくなってしまう。
不本意ではあるが、俺の前では噓偽りなく内にある感情が映ってしまうのだ、だからこそ俺は彼女に対して無下にできないのだが……。
――と言っても、さっきから何の話をしているのかとお思いだろう。
今となっては俺にとって日常の一部分でしかないので意識していなかったが、実は俺は普通の人にはない、特殊な力を二つ持っているのである。
一つ目は『人の好感度がわかる力』
端的に説明すると対象の身体の一部分に高ければ段々と赤色へ、低ければ段々と青色に変色する好感度ゲージが表れるようになったのだ。
そして何の因果か、相手が俺に対しどれだけの好感度を抱いているのか分かるようになってしまったのである。
その数値は0%から100%となっており、大体0~30%は低く、40~60%は普通、
70~100%は高い好感度といった具合に判別出来る仕組みになっている。
そして二つ目は『相手が抱く感情がわかる力』。
某二頭身野球ゲームにある調子マークをご存知だろうか、簡単に言ってしまえば俺には好感度ゲージの横にそのマークも視認出来るのである。
それも調子ではなく相手の感情を知ることが可能、どれだけ相手がポーカーフェイスであっても喜怒哀楽を知れるし、何なら喜怒哀楽以外の感情も分かってしまう。
要するに虎尾が俺に対してどう思っているかを知ることなどこのように朝飯前であり、もっと言えば彼女のおでこ付近にある好感度ゲージと感情マークを注視しておけば先読みして対応を取るということもさして難しくはない。
そう。
もうお分かりだろう、つまり俺はこの能力を駆使して藤ヶ丘高校全生徒の頂点、支配者となるべく日々奔走をしている――なんてことはない。
残念ながら全く以て逆である、俺はこの力を駆使して平穏を構築しているのである。
必要以上の関係性を持たず、かと言って孤立する訳でもない、絶妙な塩梅をこの力を使うことで実現させ、自由気ままな学園生活を送っているのである。
大体学園の頂点などに立っても、それを維持することに気疲れするに決まっている、それなら必要以上に関心を持たれない立ち位置を手にする方がベストでしかない。
誰にも邪魔されず平穏に過ごすことは、スクールカーストなどという枠組みがある以上は不可能に近いことなので、そういう意味ではこの力には感謝しかない。
まあ。
などと言いながら、虎尾にはこの力の秘密を看破されてしまったのだが……。
悲しいことだが親にも気づかれなかったこの力を何でも彼女は俺の立ち回りを見ただけで『何かが見えている』と思ったらしい、尋常ではない洞察力に感服するが、彼女が人目を避ける性格であるからこそ感じ取ったものなのかもしれない。
とはいえ、そんな虎尾との馴れ初めを話し始めると数時間やそこらで終わるものでもないので、彼女は俺の中で特別枠的な存在と思って貰えれば幸いである。
「――あ、そういえば雅継殿聞きましたか?」
「ん? 何の話だよ――って、うおっ、やべえ今度こそ殺られる」
「あーその位置ですと流石に助けに行けませぬな……すみませぬが自害して下され」
「そんな無慈悲機能あるか――……で? 何かあったのか?」
「何でもアレらしいですよ、本日私達のクラスに転校生が来るとか何とか」
「転校生? ウチって確か公立高校だったと思うんだが」
「そこは藤ヶ丘高校が藤ヶ丘高校たる所以ではありませぬかね、結果さえ出しておけば自由な学園生活を保証されておりますから」
「つまり転入テストでかなりの高成績を叩き出したと……? そりゃとんでもないな」
「しかも小耳に挟んだ所によるとモデル並のスタイルでかなりの美人だとか」
「へえ、そんなラブコメにしかいなそうな女子生徒が現実にいるとはな、生まれ変わったら俺もそんな美女になってチヤホヤされたいもんだ」
「随分と心にもないことを」
「でも産まれてからずっと勝ち組のルートを歩ませて貰えるんだぜ? 加えてどいつもこいつも自分に対して高い好感度を示すんだからイージーモードったらないだろ」
「ですが常に誰かが周りにいるというのも鬱陶しくはありませぬかね?」
「うーん、言われてみればそうだな……異様な好感度の上がり方をしている奴に毎日付きまとわれるのは勘弁願いたいな」
「ストーカー予備軍みたいなものですからな……折角自由な校風の藤ヶ丘高校にいるのですから、のんびりするのが一番ですよ――さて、助けに参りましたぞ」
「あの激戦区を潜り抜けたとか……前世はベルセルクかな?」
「ふふふ……そして大台の二桁キルですぞ、しかも残りは四人……貰いましたな」
「それにしてもこんな時期に転校生か……随分と珍し――」
そう口にしかけると、神奈川夢乃が教室へとズカズカと入ってくる。
我らが二年三組の担任であり、国語の教師でもある神奈川、体育の教師でもないのにいつもジャージ姿であり、手入れされていない茶髪のミドルヘアは完全に『ダメ女』の典型だが、顔は中々に整っているせいかそのギャップが男子に人気だったりする。
関係ないが俺に対する好感度は52%、教師であれば30%前後が相場なので他の教師に比べればやや高めではあるが、誰に対しても悪い印象を持たない性格なのだろう。
「おーっす、お前ら随分と盛ってやがるな、どうやら転校生の噂は筒抜けか?」
『先生! 転校生は先生よりも美人ですか!』
神奈川が教壇に立つなり右斜め奥の席に座っている男子生徒が意気揚々と手を挙げ、少し小馬鹿にしたような質問を神奈川に投げかける。
「ふっ、おいおい、弱冠十六歳の女子高校生と三十代の私を比べるなんて随分と無茶を言う奴だな……まあでもそうだな、彼女が私と同じ歳になった時には、私の偉大さを痛感するのは、間違いないだろうな」
『つまりアラフォーになっても恋人一人出来ない先生は凄いということですね』
「おいそこ、出来ないんじゃない、私に見合う男がいないだけの話だ、そして私はまだ三十四歳だ、四以下を繰り上げるなちゃんと四捨五入しろクソガキ」
神奈川の少しムキになった反応にクラスメイトがどっと笑い声を上げる。
「…………平和なもんだな」
教師が生徒に弄られるなど学級崩壊も甚だしいが、実は神奈川はこうやってわざと生徒目線に合わせた態度を取る傾向にある。
だからなのか、笑われこそすれど生徒に舐められる場面は一度も見たことがない。
などと言っても、教師という仕事は楽じゃないよな……なんて思っていると神奈川が手を叩き、自分へと注目を集める。
「よしよし、いい感じに温まったし、転校生を迎え入れるとしようか、おい入り給え」
いよいよメインのお出ましと言わんばかりに神奈川はそう声を上げると、その言葉に促されるようにして扉が開き、転校生である女子生徒が教室へと入ってくる。
それを見て歓声や指笛、拍手で迎え入れるクラスメイト、事前情報に胸が躍っているとはいえ、迎え入れとしては大層気分の良いシチュエーションだろう。
だが。
――艶やかに光る黒のボブカットを靡かせ、凛とした目つきで入ってきた彼女を見て、あれだけ歓迎ムードだった教室は一瞬にして静まり返る。
そして。
「初めまして、
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2019年1月1日発売!!
第3回カクヨムWeb小説コンテスト・ラブコメ部門<特別賞>受賞作!!
「好感度120%の北条さんは俺のためなら何でもしてくれるんだよな…… 」
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