5年後(2)

 白い陶器のカップに入った熱いコーヒーは美味しく、ソーセージがのったパンをあっという間に平らげてしまった。


 それだけではもの足りずに今度は卵がのったパンとそしてコーヒーをもう一杯買った。


 二つ目のパンを食べ終わるとようやく落ちつき店内を見渡す。


 客は出勤前のスーツ姿の男性が中心で他にやはりスーツ姿の女性と現役をとっくに退いたような人たちがちらほら。


 それぞれが一人でゆったりとした時間を過ごしている。


 釣り具を床におきアウトドアウェアに身を包んだ僕は明らかにこの場所で浮いている。


 まあ、こんなことには慣れているが。


 一度短パンにTシャツ姿で近所のコンビニに行く途中、職務質問されたことがある。


 すぐに自分も警察官であることを伝えたのだが、あの時は僕も相手の警官も笑うタイミングを逃してしまい気まずかった。



 店内には静かにジャズがかかっている。


 客たちは新聞や本を読んだり何かの勉強をしていたりする。


 皆それが朝のルーテインなのだろう。


 僕をふくめ朝時間に追われる人も多い中こういう過ごし方はいいと思う。


 この店も週末はまた別の顔を見せるのかもしれないが、月曜の今朝は新聞を折りたたむ音さえはっきり聞こえるほど静かだ。


 ポケットからスマホを取り出そうとしたが少し考え、手をコーヒーカップに戻す。


 今この時間を何もせずに堪能するのも悪くない。


 窓ガラスの向こうで音なく降る雨はときどき風に流されふわりと方向を変えた。




 あの日もこんな雨が降る日だった。



 雨が僕を物思いにふけさせるのだろうか、五年前の人身事故のことを思い出していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る