カフェの人々

５年後（１）

　あの雨の日の人身事故から五年たった。

　僕はもう新人警察官ではない。

　熟練のとまではいかないが一人前にはなったつもりだ。

　最初の頃の休日はただひらすら眠りこけていたが、最近はスポーツで汗を流したり、車で遠出してみたりといい感じに使っている。

　警察官の趣味で圧倒的に多いのはパチンコらしいが僕はほとんどやらない。

　自営業を営む学生時代からの友人と今日は久しぶりに釣りだ。

　が、朝からあいにくの雨。

　行き帰りに酒を楽しみたいので車ではなく電車で行ける釣り場にした。

　濡れた改札で友人を待つ。

　まだ通勤ラッシュまでには時間があり、それでもチラホラ改札をくぐるスーツ姿の男女をぼんやりと眺める。

　スマホが震えたので見てみると友人からだった。

　急な大きな仕事が入って今日は無理だと言う。

　マジか。

　でも仕方ない。

　一人で行ってもよかったがこの雨の中そこまで頑張らなくてもいいような気がした。

　今日は家でのんびりしよう。

　僕は来ない相手をただ数分待っただけの駅をあとにした。

　道すがら雨の匂いに混じって芳ばしい香りがする。

　見ると街でよく見かけるカフェがあった。

　コーヒーでも一杯飲んで行くか、朝食もまだだし。

　ふだん仕事中は缶コーヒーしか飲めない。

　たまにはちゃんとしたコーヒーを飲むのもいい。

　店の入り口で折りたたみ傘を細長いビニール袋に無理やり押し込む。

　ずらりと並べられた焼きたてのパンから一番腹に溜まりそうなものを選ぶ。

　コーヒーとパンをトレイにのせ、窓際の隅の席に腰をおろした。