カフェの人々

八月 美咲

始まりは


 芳ばしいコーヒーの香りが朝のひとときを豊かにする。


 朝の七時、人々は思い思いの時間を過ごす。


 全国チェーン展開している街のどこにでもあるカフェ。


 メンバーはいつも同じだった。


 出勤前の一服をスマホをいじりながらくつろぐ眼鏡の男、経済新聞に目を通すキャリアウーマン風の女、テキストを広げ勉強にいそしむ会社員らしき男。


 白髪の男と男と親子ほど歳が離れているように見える妻。


「あら、クロワッサンはまだ焼けてないの?」


 年老いた夫を先に席に座らせ妻は店員に訊ねる。


「すみません、ぼく今朝寝坊しちゃって」


 バイトの大学生は頭をかく。


「店の看板商品が準備できてないなんてだめじゃないの。でもいいわ、あとから焼きたてをテーブルに持ってきてね」


 その物言いは優しい。


 常連客と店員との何気ないやりとり。


 同じメンバーが同じ席に座り同じものをオーダーする。


 平日の月曜から金曜までの五日間繰り返される同じ朝の光景。


 挨拶を交わすわけではないが、目の端にそれぞれを確認することで一日が始まるような安心感を感じる。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る