「じ」で始まる業界の小ネタ集②-「ちっちゃいけど、お国を守ってるつもりです。」編

弦巻耀

第1話 深緑色の制服のこと


 現代モノを書いていてツライのは、書いているうちにリアルのほうがどんどん変わっていってしまうというトコロにあります。特に、書くのが遅い人間にとって、この問題は非常に深刻です。


 二年も三年も同じお話をぼちぼちと書いていて、ふと初めのほうを読み返した時、主人公の身の回りに関する描写がかなり古くさくなってしまっていることに気付く。

 物語のスパイスとして入れた風刺的なネタが、リアルではすでに「遠い過去の話」になっている。

 頭の中に思い描いていたラストのオチが社会通念の変化によりもはや通用しなくなっていることを悟った日には、もう倒れるしかありません。


 拙作「ちっちゃい…」を書いていて、私はすでに二度ほど倒れそうになりました。今回はそのうちのひとつについて、愚痴を、もとい、言い訳を、じゃなかった、解説をここでいたしたいと思います。


 

 「ちっちゃい……」の第1章冒頭、いきなり始まる面接シーンでは陸海空の自衛官が勢ぞろいしているのですが、「じ」で始まる業界にお詳しいか常にニュース全般をチェックなすってる方々は、「あれ、陸自の制服、変更になったんじゃなかったっけ?」と思われたのではないかと思います。


 「ちっちゃい…」本編は、2017年春に開催された「働くヒト小説コンテスト」に応募しようと思ったのがきっかけで生まれたお話です。書き始めた当初は、陸自制服の変更に関しては「構想段階」というトーンの記事がネットでちらほら出ているという状況でした。

 これまでの深緑色が紫色になるらしい、という話に、「いや、紫とかあり得んし」と絶句して、それっきり失念したまま年月が流れ……。


 それから一年余が経った2018年の夏頃、画像付きで本編を補足するようなものを書きたくなり、画像挿入機能があるサイトに投稿しようと思い立ちました。平たくいうと文字で表現しきらない部分を画像で補おうというセコい企みです(カクヨムさんでは画像を入れられないので、こちらでは文字のみです。しくしく……)。


 で、コソコソ準備している時にふと、制服変更の話を思い出しました。

 やはりボツになりました的な情報でも出ているかと検索しましたら、何と新制服がババーンと発表されているではないか! ちっとも知らなんだ! なんたる失態、なんたる不覚!

 それにしても、何この真っ黒いの。これが「紫」ってか? 


 公式によると「紫紺しこん色」というんだそうですが、江戸むらさき的な色を想像していた私は、自分の目がおかしくなったのかとPC画面に鼻をくっつけんばかりにして、ニュースサイトに載っていた添付写真を見つめましたです。


 これ、正式導入ということになったら、本編で「深緑色の制服が云々」と書いている部分はすべて「紫紺色」に書き換えねばならんのか。


 ……などと思いつつ公式HPを覗きましたら、もう陸上幕僚長サマが海自と空自の制服をミックスしたようなジャケットを着ていらっしゃるではないか! すでに陸自は紫の世界になっていたのか! ちっとも知らなんだ! またもや何たる失態! 何たる不覚!


 慌てて当該部分を書き換えようとしましたら、今度は「全隊員15万人分の新制服を調達するのに10年近くかかる」という記事を発見しました。

 そ、それって、しばらくの間は、深緑と紫がごちゃ混ぜになるという意味? 


 同じ記事によれば、新しい制服が優先的に配布されるのは、組織再編で新設される部隊に所属する人たちや新規採用者たちなのだとか。

 まあそれなら、本編の主人公がいる職場では、陸自の人たちの大半はまだまだ深緑色で暮らしているに違いない……。



 ということで、「ちっちゃい……」に登場する陸自さんたちに関しては、みんな深緑色の制服を着ている、という設定で押し通します。

 完結して「作中の時間」がそこで止まれば後はリアルがどう変わろうと関係ない、という解釈のもと、リアルで深緑色が完全にいなくなる前に本編を完結させるべく頑張りますです。


 蛇足ながら、私は自衛隊ネタでもう一つ長編を書いているのですが、そちらも同じ問題を抱えております。ホントに現代モノはツライ。


 次に新しく自衛隊ネタで何か書く時は、陸自の皆さん全員に新制服がいきわたった頃を見計らうか、海自か空自の人しか出てこない話を考えるかしたいと思います。

 あ、その前に書くスピードをアップさせるほうがいいですか……(無理)。



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