Reversible change《リバーシブル チェンジ》
モンド・エド
飛蝗 前編
雨の降り注ぐ都市に、傘を片手に公衆電話で話す中年男性が1人
髪は短く刈り上げられ、禁煙パイプを口に挟み、公衆電話で真剣に話し込んでいる。
彼の名は
電話は、細やかに降る雨音で会話を聞き取ることは出来ない
しばらくして、木田が苛立ちを見せはじめ、雨音では消す事の出来ない荒々しい声に変わる
「だぁから、あの路地での事件は一課の担当じゃあ無くなってんだよ、わかる?!
…そう、特事の、
電話相手に引き継ぎ内容を大まかに伝えて受話器を置く。
パイプをこれでもかと吸い上げる木田の後ろに一人の女性が立っていた。
「天光さん、なにしてるんです?」
黒髪を後ろで束ね、眼鏡を着用した黒いスーツを着た女性が呆れたように聞くと、振り替えって彼女を確認する。
パイプを口から外して彼女の抱える紙袋をじろじろ見ながら話し出す。
「優輝、なんだそのデケェ袋は、買い出しか?」
「これは今川焼きですよ」
今川焼と聞き、改めて袋を見る。
目測で横幅25縦40の紙袋は丸々と膨らんでいる。
「いくつ買ったんだ」
「60個です」
「…持って帰って特事で食うのか」
「はい、茶菓子として経費ヲ゛ォ!?」
木田は言い切る前に明の頬を掴むと呆れたように言い捨てる。
「落ちねぇよバカか、特事はオメェ1人しかいねぇじゃねぇか1人で全部食べる気だろ」
「ふぁいほーはふ」
「ったく、大判焼き見てるだけで胸焼けしそうだぜ」
「天光さん…今川焼きですよ」
「どっちでも同じだわ、行くぞ!」
「行くって何処にです?」
「新しい現場だよ、例のXがらみさ」
二人は大通りから外れた路地に入り、複数の捜査班が調査する現場へ到着する
「あ、お疲れ様です、木田さん」
「おう、奴さんは?」
捜査員に一人の老人へと案内される。
丈の短い白衣に火の消えたタバコを加えた腰の低い老人は木田を見ると嬉々として話し出す。
「木田ァ遅いなぁ?」
「引き継ぎに時間が必要だったからな。
文句はこいつに言え」
禁煙パイプを優輝へ向ける。
「やめてくださいよ、私はご飯を買ってただけです」
「その大判焼きだろ…って大判焼きどうした?」
優輝の手にあった巨大な大判焼き入りの袋は無くなっていた。
「食べましたけど」
「食べ…ああ、そう」
短時間で食べきれるとは思えない量だったが、深く考えるのをやめた。
「あー、優輝、この爺さまが捜査班の重鎮である
オヤジ、こいつが特事の優輝、俺たち一課の引き継ぎ先だ」
「へぇ…若いねぇ、嬢ちゃんはぁ」
「オヤジ、現場見るぜ」
「嬢ちゃんに耐えられるかねぇ?黒い《ぐろ》よぉ?」
怪しげに笑う小豆オヤジについて行くとシートにおおわれた場所に入る。
「こりゃひでぇな」
「茅場よしき、24、男、無職、西藤みゆき、22、女、風俗嬢、男は頭部を強い力で潰され破裂して即死、女は上半身を壁に鉄パイプで突き刺されて張り付け、下半身は地面と離ればなれ、硬直が上半身と下半身で違う事から張り付け状態でしばらく生きてたようだねぇ」
遺体をまんべんなく確認すると、木田は美山に尋ねる。
「…そんで、アレもあるんだろう?」
「ああ、朝方から降った雨のお陰で採るにゃ少し苦労したが、例のアレ、出所不明のバイク痕なぁ」
遺体をじろじろ観察していた優輝は、気になる話をしていた二人に割って入る。
「バイクの痕跡ってライダーの人ですか?」
「いや、あの治安維持目的のヒーローバカ共じゃない、完全に正体不明の怪しい奴だ」
「犯人…ですか?」
「濃厚ってだけだな、映っていたカメラにも全身真っ黒のライダースーツにヘルメットで男か女もわからん、ただXとおぼしき現場に必ず現れている」
「ただねぇ、発見された痕跡やカメラの映像だと一部の現場には事件が起こった後に現れてるんだよねぇ」
「戻ってきた、というよりは、確認しに来たってことですかね、天光さん」
「なんとも言えねぇが、共犯の線で捜査していたよ、一課は」
現場を後にして路地から出ようとした二人の前に、一人の男と女が道を塞いでいた。
「おひさしぶりです、木田のダンナ」
黒いテンガロンハットに赤いチェックのシャツとベストを着た伊達な男は親しそうに話すと後ろの女性が申し訳なさそうに謝罪と挨拶をしている。
「ペコペコ謝るなよ
「刑事の方にそんな軽々しく出来ませんよ!」
二人の痴話喧嘩を止めるように木田は会話を切り出す。
「モンド、何か掴んだのか?」
「天光さん、だれです、この人」
「ああ、優輝は2年前に来たから知らねぇか、こいつは
「ホームレスはやめて下さいよ、木田さん!」
「じゃあ住所教えろ」
「…無いです。すみません。」
「え、天光さん、この人路上で寝たりしてるんですか?」
「おいおいおい、誰だか知らないお嬢さん、家がないだけで住む場所が無いわけじゃなぁないんです。愛車のバンに住んでるのです。」
「へぇ、製造会社不明のバン、まだ動いてたのか、物持ち良いんだな、モンド」
まったく誉めてるわけではないが、門戸は少しテレている。
優輝は会話を聞くなかで門戸の後ろにいる女性に目を向けた、ロングコートに長い黒髪、大きめのメガネの奥に目立つグリーンの瞳
「門戸さん、後ろの方は誰でしょうか?」
「後ろの、ああ、半年前から助手をしているんですよ」
「あの、はい、初めまして、門戸探偵事務所の助手をしている山崎と言います」
「ご丁寧にありがとうございます、私は優輝、
丁寧な挨拶を交わす二人を置いて木田はモンドと話を再開する。
「そんで、何か分かったのか、それとも何か聞きに来たのか?」
「まぁ…後者メインですかね」
「はぁ、分かった、何が聞きたい」
しばらく後
「いやぁ、ありがとうございます。木田さん!」
「おうよ、で、後者メインってんなら多少は情報あるんだろ?」
「…例のバイク痕なんですが、市外へ向かう道路にも同じ痕跡を発見しました。」
「場所は」
「後でメールしておきますよ。
それともうひとつ、最初のX事件の現場に同じXと思われる人物を見た、と」
「容姿はわかってるのか?」
「発見者は全身が炎に包まれていた、と言っていたそうで」
「…お前にしては不明瞭だな」
「洗ってないもので、とれたてですから」
「ま、情報はガセでもあった方が良い、礼は言わねぇぞモンド」
「素直な木田さんなんか見たくないですわ」
笑いながらモンドと別れた木田と優輝はすっかり夜になった街を歩いていた。
「だいたいの現場で起きていた事は、さっきの現場と
全て共通している」
「やはり同一犯でしょうか」
「ま、ここからはお前さんの担当になる。
ほれ、これ」
「なんですかこれ、USBメモリ?」
木田は時計に目をやると優輝に向かって引き継ぎを行った
「本日をもって、X事件の捜査権限を捜査1課から特効事件捜査課に引き継ぐ!」
「は、はい!特効事件捜査課、浅熊 優輝!了解しました!」
「よし、またな」
「え!?」
驚く優輝をよそに木田は風俗街へ消えた
1人残された優輝はメモリをポーチにしまい、夜の街を進む
しばらく歩いていると人が道路に集まっているのを見つけた
何だろうかと見に行くと白いライダースーツにプロテクターを着こんだライダーが何台も走っていた
彼らは治安維持のために結成された民間警察のような人達だ、大多数は彼らをヒーローと呼んでいる
そんな彼らが大勢で移動しているのはきっと何か事件があったのかもしれない
私は群がる人達の一人に声をかけていた
「あの、すみません、彼らは何処に向かっているのですか?」
「え、ネットでは港の倉庫が怪しいって書いてあるけど」
「ありがとうございます!」
私はタクシーに乗り込み治安ライダーの彼らが向かったと考えられる港の倉庫へと向かった
何か、胸騒ぎがする
しばらく後、港の倉庫
無数のバイクが規則正しく並んでいる
周辺には誰もおらず、静寂が広がっている
奥の倉庫へと静かに進んで行くと何人ものライダー達が倒れていた
素早く近づき生死を確認、どうやら大体が気絶しているようだ、しかし一部の方たちは骨折など重症と思われる状態なのがわかる
優輝はすぐに携帯で現状を報告し、拳銃を握り、応援到着までにさらに先へと進む
「あれは…?!」
視線の先には巨大な赤い複眼に黒緑の甲殻を持つ人の形状をしたバッタのような姿の者
そして、その者に立ち向かうように立つ治安ライダーの1人がいた
「貴様が!最近街で殺しをしているヤツだな!」
治安ライダーが指を向け言い放つ
「ふん、お前のようなヒーロー気取りがいくら向かってきても何も変わらん」
「何だと!?」
「俺は解放したのさ…俺の中の神を!
街の奴らは俺をXなんて呼びやがるが、俺はXすらも越えたんだ!そう、俺はZに到達した!お前らのような無能なカスとは違うんだ!」
バッタ男の叫びが終わった瞬間、治安ライダーは、後方へと吹き飛ばされていた
バッタ男の強靭な足による高速キックが炸裂したのだ
鉄骨の柱に激突した治安ライダーのマスクが砕け落ち、青年の顔が見える。
それを見たバッタ男は鼻で笑う
「はッ!カスガキがよ、ヒーロー気取りでバイク乗り回すのは楽しかったろう?」
青年の意識はもうほとんど残っていない、だが消える意識の中で青年は、思いをこぼした。
「かぁ…さん…」
バッタ男はその強靭な足を青年の顔へ踏みつけた
金属同士が激突したような高く鈍い音が鳴り響く
バッタ男は青年から後方へ吹っ飛ばされていた
高速の踏みつけでほこりが舞い青年の姿は見ることが出来ない
「なんだ…?」
ほこり晴れてゆき、目の前に一人の女が立つ
「お前、なんだ、なにもんだ!」
「私は…」
ほこりが消え、右手が銀色の女が叫ぶ
「特殊効果事件捜査課、浅熊 優輝!」
「特殊効果事件…?」
「あなたのように、力を制御せずヒトを傷つける者を同じ力でねじ伏せるための特効薬、それが私」
優輝の両腕が銀色へ変わり猛禽類の足のように変化し、頬に銀の羽毛、両目もヒトの目では無い
「同じか、俺と、いや少し違うな、お前は体の一部だけしか変化出来ない、Xまでしか戻れない、なら、俺には勝てない、俺はZだからな!」
余裕を見せるバッタ男へ優輝は答える
「十分よ」
「何」
「十分なんですよ、私はXの部分帰化と、Yの全体帰化までしか出来ません、ですが、あなたに劣る事はあり得ません」
「強がってられるのも今のうちだ!」
「事実です、それに、あなたのその姿はY、全体帰化です、Zではありません」
「な?!」
言葉に押されてしまったバッタ男へさらに追い討ちをしていく
「すでに応援を呼びました、後20分…15分で到着するはずです。
投降をおすすめします」
夜はまだ長く、深い
この話は、人間が全滅し、怪人が文明を得た世界の話
怪人はいつしか自らを【
そうだ、この世界に『ヒーローはいない』
後編へつづく
Reversible change《リバーシブル チェンジ》 モンド・エド @tagame00x
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