第2話

翌週。俺は東京都練馬にあるアルファバスの本社に来ている。アルファバスは路線バスやスクールバス、貸切バスを運行している。総合職だが最初は運転手業務と聞かされた。まあだいたいどんな仕事も現場配属になるだろう。


さて今度はバスの運転手さんとなるわけだ。俺は昔、大学生の時になんとなく大型二種を取得した。元々車の運転が好きでなんとなく取得してしまった。一生使うことはないだろうと思っていたがまさかこんな形で役立つとは・・・


正直、俺は不安でしかない。バス業界というのは今深刻な人手不足に陥っている。超過勤務は当たり前というのは今やニュースで報道されたこともありかなり一般に周知されていると思う。そして何より安全がとても重要になっている。2016年には大学生などのスキー客らを乗せた軽井沢スキーバス事故。2012年年には関越道での高速バスが事故を起こすなどもあってから今まで以上の安全が求められている。


そんな業界で俺はうまくやっていけるのだろうか。不安でしかない。


だが、再就職が困難なこのご時世。唯一採用された会社だ。がんばるしかない。


「木村さん。では今後のスケジュールですね。まずは一か月間、指導教官の元でみっちり運行訓練に励んでもらいます。その後、正式に営業所に配属となりますので。今日は事前にお伝えした通り各種書類の記入。免許証の確認、それから企業理念のビデオを見てもらいますので。」


担当さんにそう言われた。それから一か月間、俺はプロドライバーとしてみっちりしごかれることになったが詳細は省かせてもらう。


一か月後


「はい。おつかれさまでした。で、来月からの勤務先ですが・・・」


人事担当の人がいよいよ発表してくれる。俺のデビュー先はどこだろう。まあこの会社、拠点は東京だし遠くても関東地方のどこかだろう。


「アンダレシア営業所です。」


アンダレシア?スペインのアンダレシアの聞き間違えだろうか?


「アンダルシア・・・?」


「アンダレシアです。スペインではありませんよ。エステニーヨ王国のアンダレシアですよ。つまる所、異世界です。」


衝撃的な話だった。

「え?異世界勤務ですか?」


「ええ、異世界勤務です。」


異世界って・・・あの異世界??


「ニュースで聞いたことありませんか?数年前日本と異世界が繋がった話。弊社は現地でも路線を運航しているのですよ。」


異世界と繋がってあっちの国と国交ができたのはなんとなく知ってはいたがまさか・・・。


「とりあえず、貴方は異世界勤務です。魔物や魔法、剣の世界です。現地の住む家はもう手配しております。もちろん手当も給料も日本円と現地通貨用の両方保障しますので。必要な荷物を期日までに練馬事務所の倉庫にまとめておいてください。他のと一緒に送りますので。」


「・・・わかりました。」



「とりあえず現地指導がまたあります。それは赴任してからとなります。詳細はこの書類に目を通してください。」

広辞苑くらいの大きさの書類の束を人事さんから俺は受け取った。これ、全部目を通さないといけないのか・・・。

こうして俺の再就職先として異世界でバス運転手をやる事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る