恋愛トラウマな俺が、もう一度恋をするとは思わなかった。

翼ユウ

プロローグ


 二年前の春。柔らかく心地よい太陽の光、自身の花を目いっぱい開かせた満開の桜、ようやく温かくなり始めた風が吹き抜ける教室で俺は、女の子と二人きりで居た。始業式に続いてHR(ホームルーム)の終わった教室。放課後の誰もいない、いなくなった教室で彼女と井桁南(イゲタ ミナミ)と向かい合っている。揺れる眼差しと細かく震わせた肩、頬をそれこそこの教室から見える桜のように淡いピンク色に染めた彼女が言う

「わたし、唯斗のことが好き。」

俺は驚いた。とても。でもほんの一瞬だけ、次の瞬間にはもう言葉が出ていた。勇気を振り絞って告白してくれた女の子に、自分が過去にそうされたように。言われたように。

「ありがとう。でも、付き合うことはできない。」

ごめん、気持ちは嬉しいんだ。と言いかけた時にはもう彼女は教室から走って出て行ってしまった。廊下を走る足音が段々と遠くなり、消える。木々の葉がそよ風によってこすり合う音だけが誰もいない教室に戻りそれだけが残った。

 その日を境に俺は、井桁の気持ちを踏みにじった最低な男としてクラスメイトからは陰口を叩かれ、女子からは避けられた。周囲は井桁の告白という行動を称賛し、拒否した俺を批判した。批判だけをした。もう恋愛なんてどうでもいい。こんなもの。

 こうして俺は恋愛がトラウマになったのだ。


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