Act.13 危機的状況
『ちょっ......』
素人たちが突撃して早数分。闘剣場の歓声は一層ヒートアップし、さらなる闘いを求めているようだった。
少女も奮闘はしているが、如何せんこのレベルじゃきついものがあるだろう。所々に生傷を増やしていっていた。
周囲を見るに、まだそれぞれの恐竜を倒せていなかったようだ。
「一旦集まって陣形を組もう!私の所に集まってくれ!!」
澄んだ高めの男の声が闘技場に響く。観客はこの先の展開を心待ちにしているらしく、彼の声が響いた後、一瞬の静寂ののちに割れんばかりの大歓声が沸き起こる。
『行くか?』
「......はい。このままじゃ埒が明かなさそうなので」
『三つ数えたら動いてくれ。念動で支援する。さん......にぃ......いち......』
魔力を集中させる。
『いけっ』
「ギュラッ!?」
今の俺じゃこの恐竜を完全に足止めすることはかなわないが、数秒身体を動かせなくさせるくらいならできる。恐竜は突如言うことを聞かなくなった身体で必死にこちらを追って来ようとするが、後数秒そのままでいてもらわないと困る。
少女は俺が念動を使ったと見るや否や、男のほうに向かっていた。
「済まない!」
「作戦は?」
「各個撃破を狙う!まずはこいつを一緒に片してくれ!」
「了解」
短い会話が終わると、すぐに男が恐竜の気を引き、攻撃する隙を作りだす。
「せんっ!!」
少女が首元目がけて溜めた突きを放つ。剣は恐竜の首元に刺さり、血をまき散らす。
「ギュロォオォォ!!」
「なっ」
普通ならもう死んでいてもおかしくないはずの致命傷のはずなのだが、どうしてこの恐竜はまだ動いている。
「あぐぅっ」
咄嗟に念動で障壁を作り出そうとしたが、一瞬こちらが遅く少女がカウンターをもろに食らってしまった。身体がふわりと宙を浮き、恐竜の口に目がけて落ちていく。
『業炎魔術、第三章十頁
正直なお話ここで魔術は使いたくなかった。前に魔術をここで使ったのだが、どうにも血のない倒し方は観客にはウケないらしかった。その時俺を装備していたやつは俺を外した後、彼の主人らしき人間に泣きついた後、守衛に連れていかれてしまっていた。
正直威力は前と比較にならないほどに落ちてしまってはいるが、手負いの恐竜を倒すのには丁度よかったらしかった。口の中という柔らかい場所に弱いが魔術をぶち込まれたのだ。これで生きていられるほうがよっぽどおかしい。
「大丈夫か!?」
「いづっ......大丈夫。次」
「あの生命力はどう考えたって異常だ。いや......亜種なのか?」
残念だがその線は薄い。というか違うんだよな。最初に鑑定した時は調教のためかと思っていたけど、どうにも裏がありそうな気がする。
この世界の獣人は理由はわからないが人間から毛嫌いされていることが多く、それの過激派が居てもおかしくはないはずだ。やるとしたらそいつらだろうが......そんなことするなら普通に主人に袖の下でもすれば済む話なのだ。どうにも腑に落ちないな。
先程少女が相手していた恐竜は別の闘剣士の所に向かってしまっていたらしく、恐竜に傷は負わせられたようだが、二匹の間に男の死体が転がっていた。
「次はあれだ!」
言われずとも。少女が身を低くして刺突の構えをとる。一気に恐竜との距離を詰め、気づかれないうちに一匹を仕留める。遅れて男も戦闘に参加し、片手剣でじわじわダメージを与えていき、最後は少女が後ろから片を付けた。
残るはあと二匹。
向こうにいた二人のうち一人は恐竜に頭を喰われて事切れていた。残った二匹は最初に脳筋突撃をかましてくれたあの巨漢と対峙していた。
助けに入ろうとしたが、恐竜二匹の無駄に滑らかな連係プレーによって、喉笛を噛み千切られてしまった。
「ちっ......結局こうなってしまうか......」
「あなたは右を。私は左のやつを相手する」
「了解した」
この男も中々飲み込みが早くて助かる。お陰でこっちがかなりやりやすくなった。
『作戦はあるのか?』
「念動で一瞬抑えてください」
『保険は?』
「倒せば何の問題もないですよ」
はぁ......ま、頑張るか。つか、俺との会話に慣れてきてるな。こやつ。
ハンドサインで突撃タイミングを合わせる。
男の手が振り下ろされ、同時に突撃する。戦力の分散にはなってしまうが、手負いならばこちらのほうが効率がいいとの考えだろうか。
間合いを詰め、まずは軽く刺突。が、軽く避けられ代わりに鋭い歯がびっちり生えた口が飛んでくる。
左に跳び、姿勢を低くする。首を上げ、恐竜がこちらの出方を窺う。
「ふっ」
姿勢をかがめたまま、突進。恐竜が足で押さえつけようとするが――
「ギュロォオオオオッ!」
その上げた右足を切り飛ばされる。からくりとしては俺が念動で一瞬身体を硬直させ、その隙に乗じて少女が固まった足を切り飛ばすというもの。シンプルだが、結構使いやすい。
右足を切り飛ばされた恐竜は、ダメージを受けた左足だけではきつかったのか、横倒しになる。
恐竜に近づき、頭に剣を突き立てる。恐竜は事切れていた。
「「「オォオォォォオオオッッッ!!!」」」
中にはしかめっ面をしている者もいるが、大勢の観客がこちらに向かって歓声を送っている。
丁度よく男のほうも恐竜を倒せたらしく、こちらでも大歓声が上がっていた。
「な、な、な、なんとォ!!勝利したのは、奴隷剣闘士の二体だァ~~~ッ!」
大歓声が止まぬまま、返り血にまみれた男と少女は出てきた門をまた潜る。男が少女に話しかける。
「感謝する。あのまま戦っていれば我々は全滅していた」
「大丈夫。お互いさまですよ」
「......感謝する」
鉄格子をくぐると、少女と男の主人らしき男女が待っていた。
男は正直大したことなさそうだが、女の人の方はヤバい。全身から漂うオーラと凄まじい魔力がその強さを物語っている。浮遊城にいた時の状態で戦っても、負ける未来しか見えない。
「よくやったな!これで私の財布も潤う!次に期待しているぞ!」
「......はい」
「ん?なんだ?何か言いたいことでもあるのか?私は今機嫌が良い!何なりと聞くが良い!」
「では......私と一緒にお買取りになられた獣人はいかがなされましたか?」
「ん?......あぁ、あれか!あれならもうとっくの昔に壊れて捨ててしまったわ!また別の玩具を探さねばならんな!買ってくるとしよう!もうよい!下がれ!」
「......はい」
『殺すか?』
首をふるふると横に振る。だが、その心中は穏やかではないだろう。必死に押さえつけようとはしているが、怒りと形容していいのか迷うほどの激情が彼女の中で渦巻いているのがよく分かる。
「今はあんな馬鹿ばっかでお互い困るな」
男の主人らしい女の人に声をかけられる。
「......ありがとう......ございま......っ」
「ほれ」
女性が胸を貸す。顔を胸にうずめた少女の悲痛な慟哭が石壁に反射し通路に響き渡る。
......胸糞悪い。あの野郎は絶対に殺さねばならんな。ブラックリストに突っ込んでおいておくとしよう。
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