第31話 戦術と戦略
日々の練習を重ねることで、チームメイトのバスケに対する意識が高まり、個の技術としては成長を見込める状況が見え始めていた。
僕は次の一手としてみんなにチームとしての目標を提示し、いつまでに何をやる必要があるかを考えてもらう準備を始めていた。
まずは、大会までの残日数のカウントダウンボードを模造紙に書き0~9までの2桁の数字を表現出来るように20枚の画用紙に数字を書いて模造紙に貼り付けるようにした。
日々カウントダウンすることで残日数を意識した練習が可能となるため、いつまでに何をやるかが明確になるというものだ。
「大会まであと○○日!!」
これは中学時代の受け売りとなるのだが、良く一緒に練習相手をさせられていた全国大会常連の高校女子バスケ部でやっていたことを真似ていた。
全国常連高校の顧問の先生が中学の顧問の先生の恩師という事もあって、全国常連の高校女子チームとしては県内の高校では練習相手がいないという事で、僕たち中学男子が練習相手に選ばれていた。
初めて練習に行った時には、女子高生と一緒に試合が出来るという事で、中学男子の僕たちには浮ついた気持ちでいた。
しかし、その浮ついた気持ちは体育館に入った途端に打ち砕かれた。
まずイメージしていた女子高生は、一人もいなかった。
体格も僕たち中学男子より一回り大きく、試合が始まるとリング下のポジショニングで、吹き飛ばされた。
足腰ともに鍛えられており、走り負けをしてしまった。
夏に倒れるまで走り込んでいたのに、女子高生たちは、それを凌駕する運動量を身に着けていた。完敗だった。全国レベルの女子高生を甘く見ていた。
悔しい思いをした僕は、その強さはどこから来ているのか学んで帰ることにしていた。
その学校の体育館はバスケ専用の物が別に建てられており、常に壁に個人目標が張り出され、大会までのカウントダウンのボードも一緒に掲げられていた。
この目標を練習の始まり整列のタイミングで、一人ずつ大きな声で読み上げるという行為を行っていた。
大きな声を出すことで、自分と仲間に目標を意識させ、目的意識を持たせるというものだった。
その経験を活かして、今回のチーム作りの参考に実践することに決めていた。
この大会までの日数を設定したのは、夏にある最初の大会のフープスター・サカイカップだ。
バスケット用品を扱うメーカーで、毎年後援という形で大会をサポートしてくれている大変ありがたい会社だ。
ボールメーカのモルテンも協賛となっているため、参加賞としてボールが貰える大会でもある。
そのメーカー名が冠についた大会となっている。
ベスト8まで勝ち残れば、その後に開かれる全国大会まである地方大会予選のシードチームとなる資格を取得出来る大会となっていた。
この大会に向けて、チームとして勝利するための方針を立てることにした。
小学生ということもあるため、細かい戦術(フォーメーション)の反復練習を繰り返すことは、やらないことにした。
もし高校生であればフォーメーションのバリエーションを持つことで、様々な局面での対処法として機能させることが可能なのだが、一つ一つの戦術を覚えるのに時間がかかるというデメリットと、その戦術が機能しなかった場合のチームメンバーに与える精神的ダメージが大きいという2点で、却下することにした。
というわけで、オーソドックスな戦術で勝てるチームを作ることに決めた。
基本的にディフェンスは、ハーフコートのマンツーマンとする。
オフェンスの方針の一つ目は、ターンオーバーからの「ラン&ガン」を行うこととする。
これはどのチームをやることなので特に新たな話ではないのだが、リバウンドからの縦パス1本で速攻を決める(シュートまで持っていく)という作戦だ。
ディフェンスリバウンドを取るために、相手チームにインサイドでのプレーをさせないように内側のディフェンスを固めて、アウトサイドからのシュートを誘うようにディフェンスを行う。
アウトサイドからシュートを打つと同時に、マークしてる相手にスクリーンアウトをかけ、ディフェンスリバウンドを取れるようにする。
通常ディフェンスをする場合はマークしている選手に向かって、ゴールを背にしてディフェンスを行うが、スクリーンアウトの場合シュートを打った瞬間に、両腕を広げて直角にに曲げ、両足を踏ん張るように広げて膝を曲げ、背中と両腕と両足で1枚の壁を作り、マークしている相手を背中で密着するように背負う姿勢を作ることだ。
マークしていたオフェンスを背負うことで、ゴール下のリバウンドに有利なポジションを確保し、確実にリバウンドを取るというディフェンスだ。
リバウンドが取れると判断出来たタイミングで、足の速いメンバーは、スクリーンアウトを解除し、フロントコートに向かって全力疾走を開始する。
リバウンドを取ったメンバーは、誰もいないゴール下に向かって1本の長い縦パスを行う。
走り込んだメンバーは、そのロングパスをキャッチし、レイアップシュートを決めるという戦術だ。
確実に、相手との得点に差を付けることが出来るプレーのため、これが出来るチームは強いチームとなる。
相手側にしてみると、シュートを外すと確実にターンオーバーを決められるため、シュートをする選手にとって外せないというプレッシャーがかるため、いつもよりシュートの成功率が下がってしまうという悪循環に陥ってしまう。
基本的なプレーなのだが、このプレーは意外と戦術として機能する。
オフェンスの二つ目は、「セットオフェンス」になるのだが、フォーメーションプレーを行うのではなく、ショットクロックの30秒をフルに使って、ロングレンジからのシュートを行うという戦術だ。
公式戦では、6分間の4クォーター制なのだが、予選1日目は、1分短い5分のクォーターとなっている。
恐らく、1クォーター当たり6~7回セットオフェンスを行うことで、試合時間を消化できる計算となる。
30秒フルに使うことで、両チームの攻める回数を最小限に留めることが出来るため、最小失点での試合展開が見込める。
これはかなり極端な話なのだが、1点も取られなければ試合に負けることは無いのだ。
要するにロースコアでの戦いとなり、ゲーム終盤まで、なるべく失点を少なくし、相手よりワンゴール多く点を獲得すれば勝てるという戦略だ。
ゲームプランとして、第1クォーターと第2クォーターで、全員入れ替える方式として、1試合に10名出場させるという条件をクリアして、第3・第4クォーターで、ベストメンバーで挑み、試合を決めるという作戦とした。
この戦術と戦略で、チームとしてどこまで行けるか試してみよう。
まずは夏の大会でのベスト8進出が目標だ。
57チームによるトーナメントのため、2勝もしくは3勝する必要がある。
予選リーグが無いため、負けたら終わりの一発勝負の大会となる。
この大会でベスト8を逃しても、ベスト16に入っていれば得失点差によって、地区別の順位が1位であれば、11月末に行われる全国大会予選(全16チーム)の参加資格を得ることが出来る。
もしくは上記を逃したベスト16から抽選で1チームだけ選ばれる可能性があるというものだ。
要するに、最低でもベスト16には入っておかなければ、全国大会予選の出場資格が得られ無いということだ。
全国大会予選はベスト8の8チームに加えて、7地区の代表の7チームとベスト16から抽選で選ばれた1チームの、計16チームが出場となる。
ベスト8に入れば文句なしで予選に出られるし、かつベスト4に入ればシード権も得られるのでトーナメントの四隅の位置を獲得することが可能となる。
とりあえずこの大会の上位進出を目標に、チームをまとめて行こうと考えていた。
構想は出来上がった、後は練習にてチームメイトにこの戦術・戦略を説明して理解してもらい、実践するのみだ。
みんなが目的意識を持って日々の練習を有意義なものに出来るよう、全面的にサポートして行こう。
僕が主役じゃなくても勝てるチームを作ろうと固く心に誓った。
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