3.
あれから銀河標準歴で二十八年の月日が流れた。
今でも時々、あの時の記憶を
なぜマサトは大学を辞め、私と別れ、軍隊に入ったのか?
恐らく本当の理由は、こうだ。『完全に自分のモノにならないのなら、いっそ目の前から消えてしまった方がいい』
私には分かる。
なぜなら、私と彼は似た者
私も卒業間際にマサトに別れを告げようと思っていた。先を越されてしまったが。
マサトは「近くまでは行けても、ギリギリの所で自分は山の頂上には
なまじ登ろうとするから、なまじ頂上の一歩手前まで行けてしまうから、頂上へ
ならば、いっそ、山を降りてしまえ。山に登るのを辞めてしまえ。
* * *
大学卒業後、私はバルメン星系最大の新聞社に入社し、ジャーナリストとしての第一歩を踏み出した。
いくつかバルメン星系内の社会的対立に関する記事を売った後、ある出版社に自ら企画を持ち込んだ。
題して、『ヴァレゴナ7内戦記』
……長く続いた独裁軍事政権の弱体化と同期して、虐げられていた民衆が惑星各地で武装蜂起し、地表のあらゆる場所で政府軍と反政府勢力が、反政府勢力と別の反政府勢力が銃を撃ち合う惑星、ヴァレゴナ7。
星一個まるごと戦場とも言えるその場所へ出向いて捨て身の取材を敢行し、書き下ろしノンフィクションを書く。
幸いにも我が故郷バルメン星系は、長いあいだ戦禍に
バルメン星系人は刺激に飢えていた。
無い物ねだりは人の常だ、と、企画を買ってくれた
この大銀河においては戦争こそが常態。自分たちの平和が危ういバランスの上に成立していることは、皆んな本能的に分かっていた。
だから、故郷の平和の永続を願いながら、同時の他の星系の血なまぐさい話に耳をそばだてた。
一つは、単純な好奇心から。
一つは、いずれはこの星系にも来るであろう戦禍に対し、無意識に心の準備をするために。
出版社の経営陣も編集部も、私の企画に商業的な勝算は充分あると見込んだ。
単身戦地に乗り込む私が無事に取材を終えてバルメン4帰って来さえすれば、の話だが。
半年後、私は新しいノート数冊と愛用のコンパクトカメラを持って、独りバルメン発ヴァレゴナ星系行きの
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