惑星グラヴェリア5の隠者
青葉台旭
1.
「グラヴェリア星系近傍への直行
ロボット操舵手が舵を握ったまま首だけを百八十度回転させ、船主席に座る私に言った。
「三十一標準自転周期後に再実体化します」
「三十一日後? 一ヶ月も掛かるの?」私は思わず聞き返した。
「はい」ロボット操舵手が感情の無い声で返した。
出港時、念のため食料は多めに積んでおいた。やりくりすれば一ヶ月くらいなら持つかもしれない……でも。
(亜空間の船に三十一日間なんて、そりゃあ
十体のロボット
大枚
その限られた居住空間に、たった一人で三十日以上も閉じ込められるなんて、さすがにゾッとしなかった。
私は、船主席の隣に立っている
「分かりました」
(ロボットは便利だな。電波さえ届けば互いに分かり合える。きっとロボットの世界には誤解も嘘も無いのだろう……)
人間には聞こえない
(たかが機械ごときに出来るんだ。機械の創造主たる
「冷凍睡眠の準備が整いました」
私は席を立ち、「三十一日後、船が再実体化したら起こしてちょうだい」とロボットたちに言い残して
* * *
冷凍睡眠室の奥に設置されたシャワー室で、まずは体を洗う。
シャワーのバルブを開きながら、壁面に埋め込まれた鏡に映る自分の裸体を見た。
標準年齢で五十歳。小さめの乳房も尻も、
「……さすがに大学時代と同じ体型って訳には行かないか……まあ、こっちが五十歳なら、向こうだって五十歳……彼だって歳相応だろうさ」
体を清め終わり、シャワー室から出て、そのまま冷凍睡眠カプセルの中に横たわった。
カプセルが自動的に密閉され、「シューッ」という音とともに麻酔ガスの放出が始まった。
ガスの効果は
頭がボーッとして、全身の触覚が無くなった。
続いて薄青い液体がカプセル内に流れ込み、麻酔ガスと置き換えられて行った。
鼻と口から侵入した液体が気管を通って肺の中へ流れ込んでくるのが分かった。
麻酔のおかげで苦痛は無かった。反射的な拒否反応も抑えられていた。
青色の液体の中で私の裸体がゆらゆら揺れた……眠気が増して……意識が徐々に薄れていく……
* * *
私は今、惑星グラヴェリア5へ向かっている。
自家用クルーザーに乗って、亜空間を三十一日間も旅して。
学生時代の恋人に会うために。
二十八年ぶりの再会。
意識が完全に無くなる直前、どこかの食品通販会社の広告宣伝文が頭に浮かんだ。
(採りたての果実を
思い浮かべた自分の冗談に、口もとが「ふふっ」と笑みの形になるのを自覚した。
そして私は、深い深い眠りの底へ沈んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます