35 多治見カンナの策略 -6-
「何そんなにぶーたれてんだよ。」
千秋ちゃんが呆れたようにあたしの顔を覗き込む。
…ぶーたれたくもなるわよ…
牛丼を平らげた後。
ちーちゃんは一足先に事務所に戻った。
あたしと千秋ちゃんは、そのまま定食屋の座敷で…妙な空気のまま、お茶を飲んでいる。
「…千秋ちゃんこそ、どうしてそんなに余裕綽々なの。知花さんと上手くいっちゃいそうなわけ?」
あたしが不貞腐れたまま言うと、千秋ちゃんは何事もなさそうな顔で。
「は?俺と知花ちゃんが上手くいくって、何だそれ。」
あたしから視線を外した。
…あーのーねー。
千秋ちゃん、天才君で自分は完璧って思ってるかもだけど。
分かるのよ!!あたしには!!
冷静な顔してるけど、知花さんの名前が出ると目元の緊張感が無くなっちゃうんだから!!
つまり、デレデレな目元になってるのよ!!
「…まあ、いいわ。それなら言うけど…ちーちゃんと知花さん、めちゃくちゃ仲良しよ。」
千秋ちゃんに白目をむくようなふざけた顔を向ける。
ほんと…変顔もしたくなるわよ…
あんな、オドオドした…どんくさそうな女に負けるなんて…
「…めちゃくちゃ仲良し?あいつらが?」
「そうよ。色々波風立たせたはずなのに…前にも増してイチャイチャしてる。」
「……」
何もなさそうな顔したクセに。
あたしがちーちゃんと知花さんの仲良しぶりを力説すると、千秋ちゃんは少しだけ下唇を突き出した。
…何その顔。
おいっす!!って言っちゃいそうだわ。
「…おまえ、それで複雑そうだったのか?」
突き出した下唇を引っ込めて。
我に返った千秋ちゃんがあたしに言った。
「…まあ、それもだけど…」
「他は。」
「…ちょっと…仕事に関してのトラブル回避を考える自分に驚いたり…」
…そう。
七生聖子に…これ以上ちーちゃん達の邪魔をするな。って釘を刺されて。
そしてそれは…遠回しに、仕事がどうなってもいいの?って言われてるようにも聞こえた。
今までのあたしなら?
恋に一直線。
モデルの仕事なんて、またどこかで始めるからいーわよ!!って…そう思ったはずなんだけど。
…千秋ちゃんが手回ししてくれて、受ける事が出来たオーディション。
合格したのは自分の実力。
とは…言い切れない。
だけど、それがいつか。
あたしはあたしの実力でそこに居るんだ。って、胸を張りたい…って気持ちが芽生えた。
それは、ビートランドでMVに出演させてもらったり、ラジオ番組を持たせてもらったりして少しずつ生まれた物だと思う。
チヤホヤされるだけじゃない。
ちゃんと…あたしを認めて、使ってくれてる。
そして、アドバイスもダメ出しも、フォローもしてくれる。
ここは、居心地が良くて。
このまま居座っちゃいたいなあ。って思わない事もない。
だけどあたしの本職はモデル。
もっと世界に出て…多くの人に見られたいし…
何より、あたしにそこまで期待してなかった両親とか…
…何なら、ちーちゃんや知花さんをも、見返したい…
「…おまえ、変わったな。」
千秋ちゃんが、優しい顔で頭をポンポンとしてくれた。
「…千秋ちゃんも、気付いてないかもだけど変わったわよ。」
「は?俺が?」
「うん。その調子で、もっと素直になってもいいんじゃない?」
「ガキが何言ってんだか。」
「ほら。そうやって誤魔化すけど…あたしから言わせると、千秋ちゃんが一番子供だよ。」
「…あのなー…」
「はーあ…っ。悔しい。超悔しい。」
「……」
何が悔しいかって…
知花さんみたいに、胸ペタン子ちゃんに負けた事よ。
ちーちゃんの好み、疑うわー…
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