2 神 千里の日常
「ちーちゃんがこんなに笑顔の多い人になるなんて、思いもよらなかった。」
目の前で呆れたような顔をしてるのは…
俺の幼馴染だ。
ガキの頃は、俺と、俺のすぐ上の兄貴にくっついてたけど。
俺がバンドを始めた頃からは、少しずつ疎遠になった。
最後に会ったのはいつだっけな…
じーさんちで…
……あの夜か。
「幸せだと自然と笑顔にもなる。」
昼飯を奢れと言われて、普段は来ないような小洒落たレストランに誘われた。
ま、昔馴染みの奴だから、飯ぐらいはな。
「ふうん…そんなに幸せなの。」
目の前のカンナはテーブルに肘をついて、唇を尖らせた。
真っ赤な口紅が、知花と同じ歳であろうカンナを大人に見せている。
胸は…自分で6cm大きくなったって言っただけあって、確かに迫力だ。
普段見ないような物が目の前にあると、それはそれで目の保養にはなる。
…別に知花の身体に文句はないが、これは男のサガだ。
別に触るわけじゃない。
許せ。
「俺が幸せだと唇が尖るのか。」
足を組んで鼻で笑う。
そう言えば、こいつは昔から自分が一番じゃねーと気が済まないタイプだったよな。
もしかして、自分の方が幸せじゃねーとムカついたりすんのか?
「子供もいるのよね。」
「ああ。誰に聞いた?」
「おじい様。」
「じーさんちに行ったのかよ。」
「だって、あそこに住んでるとばかり思ってたんだもん。」
「去年、嫁さんちに婿入りしたからな。」
「…ほんと、それ意外過ぎる…」
「そっか?ま、確かにみんな泡吹いてたな。」
大げさに言いながら、自分で笑う。
桐生院家のみんなも、事務所でも。
俺の婿入りを知った人間は、だいたい目を見開いて声を上げた。
大した事じゃねーよ。
「…子供可愛い?」
「超絶可愛い。」
「……」
「じーさんちに写真あっただろ?」
「あったわよ。おじい様もデレデレになって説明してくれたわ。」
「だろーな。贈り物ハンパねーし。」
ずっと面倒掛けて来たじーさんと篠田。
あの二人は、
そんな様子を見ると、やっと孝行出来たのかなー…って。
産んでくれたのは知花だけど。
知花に感謝だな。
うん。
「…知花さん、歌ってる人なんだってね。篠田さんが自慢してた。売上がすごいって。」
「あ?」
運ばれて来たサラダにドレッシングをかけながら、カンナは長いまつ毛をゆっくりと伏せる。
そういう仕草は、あの頃に比べて大人になったなー…と思えるが…
「ああ。あいつ自体すげーボーカリストだけど、バンドメンバーもすげーのが揃ってる。」
「ふーん…そうなんだー。」
全く…
こういう所はガキの頃のまんまだな。
他人が褒められるのは好きじゃない。
あの頃、カンナは親と一緒にいる事が少なくて、褒められる事を知らなかった。
それゆえか…
誰かが褒められる事、誰かが幸せでいる事に嫉妬してばかりの子供だった。
俺もガキの頃から両親とは離れて暮らしてた。
じーさんちで篠田に世話を焼いてもらってた分、寂しさなんてのはなかったが…
カンナはずっと寂しい思いをしてたもんな。
「おまえ、ローマで少しは有名になったのか?」
さっきから俺や知花の事ばかり聞いて来るのも、自分の事を聞いて欲しいからだろうと思い問いかける。
「ふふ…その話、聞きたい?」
「…聞きたくない。」
「もうっ!!ちーちゃん意地悪!!」
「ははっ、嘘だよ。話せよ。」
「あたしね、八月に立ち上がるプロジェクトの専属モデルに選ばれたの。」
「おー、すげーじゃん。いや、それってすげーのか?」
「もー…ちーちゃんてば…やっぱりちーちゃんはちーちゃんだ…」
…カンナが笑ってると、安心する俺がいる。
それはお互い寂しかったガキの頃を知ってるから。ってだけだ。
それ以上の感情は何もない。
だが、このカンナ。
俺の幸せに、嵐を巻き起こしやがる。
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