12 新生ダンジョン探索のセオリー



 新生迷宮ネオダンジョンのスタート地点へ司の転移が完了した。

 洞窟の通路は分かれ道を繰り返して複雑に、どこまでも長く続いている巨大な迷宮であった。


 地下水脈で冷やされた風が頬を擦り、薄暗い地面は岩に含有する輝石成分のわずかな光で照らされている。毎週来ている見慣れた風景を確認する。


「今週も潜る事が出来てなによりだけど‥‥」


 自然地形で形成されたその光景は一見すると旧来のオーソドックスなダンジョンと見た目が変わらない。しかし亜空間の性質を持っている次世代の新生迷宮ネオダンジョンでは独自の法則に合わせた攻略方法がいくつも存在しており、それを司はここ数年間研究していた。


 その最たるものとして、新生ダンジョンで得た魔石をその空間内でMP変換すると変換効率が4~6倍までに高まる事が挙げられる。

 新生迷宮内でのみ適応されるシステムではあるが、これを見つけた事によって新生迷宮における戦術は大きく変化したのであった。


 司が転移陣前で起動した装備は、脚部魔導装備、【風霧カゼキリ】。

 過去、魔王戦に向けて勇者が装備した伝説の武具を機械式にして再現したレプリカである。賢妖精、ダルケン族と開発した人工魔装は、紋唱珠の力を魔導具で効率制御する魔術機工学の装備。


 造成ジェネレート魔法で本物の魔装具を召還しようとすると大量のMPを必要とする事から、勇者達は魔術機工の開発に力を入れた。

 司も魔装具の仕組みを解明していた母の研究結果を引継ぎ、紋唱珠を組み合わせた再現研究をダルケン族とテストを続け今に至る。


 起動にはまだそれなりののMPを必要とするが、外界ではなく新生ダンジョン専用に変換した魔力であれば有効利用することが出来るので問題はない。


「彼女たちの居る地点は中域地点だったな。距離がかなりあるが‥‥スピード優先だ。最速のランスタイルでいく」


 魔力が行き渡った装備を起動するため、くるぶしにあるセレクタのスイッチを入れた。脚部の人工魔装は時間をかけて徐々に風を帯び始める。そして魔力が完全に燃焼しだすと、エネルギー出力した駆動音がダンジョン深くまで重低音を響き渡らせる。


 安定したなアイドリング状態になった事を確認し、司は風魔法を足元から放つ要領で魔装をフル駆動させて足元が軽くなる感覚に入った。


「その装備‥‥まさか魔装なのか!?」

 アンナの転移が完了して、後続する形で走ってきた。

「それを召還する魔力量を‥‥どうやって‥‥!」


「アンナさん、魔力を失ったあなたに魔石を渡す事は出きますが、このダンジョンに慣れていないアナタにとってココが危険である事に変わりはありません。決してここから先には行かないようにしてください」


 司は説明を省いてアンナの安全を保証させようとした。


「しかし、エルナレス様を‥‥」

「彼女は僕が見つけてきます」


「‥‥!‥‥どうか頼みます、どうかエルナレス嬢を‥‥!!」


 ギイイイイインという音と共に司のフルスロットルが始まった。


 予備モーションすら見せる事なく、その場から一瞬で人影すら見えなくなる程に走り去る脅威のスピードであった。


「あれが‥‥時限式ダンジョンの‥‥攻略方法なのか‥‥」


 アンナはあっけにとられながらも、熟練したネオダンジョンの探索スキルに驚き、洞窟にどこまでも続いて舞い上がる土煙をいつまでもみつめていた。



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 司は洞窟迷宮の分かれ道を右へ左へと迷いなく突き進み、小石を巻き上げながらその軌跡に風煙の軌道を描いていく。


 駆動音を響かせながら直進し、地面を削りながらカーブを曲がっていく。それは人間の疾走では決して追いつけないような速さであった。


 地上の小妖精からサキの座標を聞き出したとき、その付近で一定以上の広さを持つエリアを選定し頭の中で道順を定めていた。このダンジョンに毎週潜っていた司は、まるで自分の家の庭のように道順を把握しており、魔装の生み出す猛スピードは決して落ちる事なくワイバーンの出現位置に最短で迫っていく。


 すると目の前に巨大昆虫種モンスター、大蝿が現れた。


 こちらに気づくと羽を広げて飛んでくる。地上の蝿と違い、人間から逃げる事がない。司に向かって敵意をあらわにしていた。


 司は全速力の前傾姿勢から体を起こしていく。そして右足から風の刃を放った。


風弦月刃アークウィンド


 風の刃が足下から三日月状に放たれ、前方へ迫っていく。風が大蝿に触れた瞬間、放たれた技によって抵抗なくその体を切り分けていった。


 司の人工魔装は移動サポートのアイテムとしてだけではなく攻撃武具としても兼用され、一瞬のうちに1体のモンスターを討伐した。


 命を失ったモンスターは緑色の煙と化して霧散‥‥そしてその煙の中心から光り輝く魔石が現れた。


 宙で変化した魔石は重力を受けて降下をはじめるが、その落下地点に司の手が滑り込み地面に触れる事なくキャッチされた。司はこれらのアクションを一瞬の連続した流れの中で行い、スピードを止める事なくさらに風のように進路を突き進んでいく。


「サキ‥‥どうか無事でいてくれ」


 5人安否を心配しながら、小妖精の無事を祈った。







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