霜月下旬、ツリーを出すか炬燵を出すか
木染維月
第1話
「認められない」
俺は目の前の友人たに向かい、毅然とした態度で言い放った。
所はリビング、時はクリスマス直前。
論旨は、「霜月下旬、ツリーを出すか炬燵を出すか」。
これは毎年毎年繰り広げられる、このシェアハウスにおいての極めて重要な議論なのである──。
「クリスマスツリーなんて名前がついちゃいるが、要するに
ダン! とテーブルに手を手をつき立ち上がって力説する俺を──しかし、友人は、この季節に降る氷雨もかくやというほどの冷ややかな目で見つめる。
そして、メタルフレームのメガネをくいと持ち上げると、世の中のクリスマスを憎む者、嫌う者、全てのクリスマスアンチを小馬鹿にしたような態度で、滔々と語りだした。
「可哀想な思考だね、哀れな友よ。クリスマスツリーに実用性なんて無粋なものを求めるなど、極めて愚考──実にナンセンス。クリスマスツリーは、主・イエスキリストの生誕を盛大に祝う為の装飾であり、生誕を祝う気持ちの表現──違うかい?」
言い終えるなりもう一度メガネをクイと持ち上げる友人。毎度毎度、こいつのこの動作を見る度にそのメタルフレームをへし折ってドブ川に投げ捨ててやりたくなる──どうして俺はこいつと何年も友人をやっていられるのか自分でも非常に不思議だ。
俺は半眼になって、友人に問うた。
「......聞くけどさ。お前、いつからキリスト教徒なの?」
「
「…………」
あっさりと返されてしまい、俺は言葉を失う。決して言い返せなかったわけではない、あまりの暴論……いや、論にすらなっていないが、とにかくあんまりな物言いに言葉を失ってしまったのだ。
ちなみにだが、「両方出せばいいじゃないか」という意見については、今のうちに切り捨てさせて貰う。
残念ながらこの男二人が暮らす狭いシェアハウスに、そんなスペースは残されていないのだ。
「なんか理屈っぽく言ってやがるけどお前、何の筋も通ってねえからな。メガネ効果怖ぇな」
「理屈っぽく聞こえたかい? お褒めに預かり光栄至極だよ、何せその為のメガネだからね」
「……伊達だったのかよ」
かれこれコイツとシェアハウスを始めて五年になるが、そいつは初耳だ。ルックスだけはそこそこいいコイツ、女子からの評判は完全にメガネ男子枠だってのに。
尚、既にお察しだろうが、コイツの良いのはルックスのみである。中身は清々しい程にクズで、尚且つ、コイツと友人をやってることが俺的世界七不思議に入る程度には何かと面倒臭い奴だ。
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