共感覚者たち
@zaamx
第1話 実録慶應卒エリート同士の会話
趣味の良いイタリアンバルの奥の方に、彼らはいた。
「へぇ、じゃあ君は"エス・エフ・シー"なんだね」
と、華奢な体にノースリーブを纏った女がやや強気にそう発言する。ショートヘアで、細く白い首筋が際立つ。瞳は大きく、顔は小さい。美人である。
「そうだよ」
原田さんはそう言うと、ハイボールを一気に飲み干した。
"エス・エフ・シー"出身の原田さんは慶應出身の若手経営者だ。ネットを用いて多角的なサービスを展開している。日本の経済界の重鎮ともつながりがあり、また経営もうまくいっているとの評判。精悍な体つきでなかなかいい男。つまり「ちゃんとした」経営者なのだ。
雨宮くんは、原田さんの隣で、含み笑いをしながら白ワインを飲んでいる。雨宮くんは慶應の法学部出身だった。"エス・エフ・シー"ではなく。
「あなたは弁護士なんでしょ?」
華奢な女が雨宮くんに話を振る。
「少し前まではね」
「少し前って、今は何をしているの?」
「何もしていないよ。毎日本を読んだり、海外旅行したりしている」
「からかってるの?」
華奢な女は苛立っているようだった。
「からかってなんかないよ。本当なんだから」
「どうやって生活しているの?」
雨宮くんは株取引でうまいことをやっているということを僕は知っているけど、最もな質問なので黙って聞くことにしている。
「生活なんてものはどうにでもなる。そういう具体的なことを考えるのは苦手なんだ」
雨宮くんは言う。雨宮くんはお酒に弱いので、まだ数杯しか飲んでいないけど頬は微かに紅潮している。
「法学部なら、林田という先生をしっているでしょ?」
「結果無価値の話をさせると話が長くなる。でも、僕は彼のことが嫌いじゃなかった」
「ふうん」
自分で話を振った割には、興味のなさそうな返事をする。彼女は赤ワインをオーダーして、しばし沈黙する。
「あなたなんで弁護士を辞めたの?」
「事務所は狭いし、揉め事の処理なんて息が詰まる」
「それだけ?」
それだけだ、と雨宮くんが言う。
「こいつはちょっと天才系なんだよ」と、原田さんが割って入る。
「凡人には理解できない」と雨宮くんが笑いながらつぶやく。
凡人には理解できない。
「あなた、学生時代にどんな部活に入ってたのか当ててみせましょうか」
「面白いね」
女は雨宮くんを見つめる。
「帰宅部でしょ」
「冗談じゃないよ」
雨宮くんは、どこか嬉しそうな表情をして、白ワインを飲み干す。
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