第107話 失敗

「聞いて、お母さんの今日の失敗聞いて」

 娘を捕まえて有無を言わせず語るデバネズミ。

「うん、うん。へぇ、どうして?笑える」

 欲しいリアクションをくれる娘にご機嫌。


「お父さんにね、『アボカド食べる?』って

 聞こうとするんだけど、口が回らなくて

 とかって言っちゃうの。あとね、

 バナナジュース作る時、ミキサーのフタ閉め

 忘れて、スイッチ押したら半分無くなった」


 ドジなデバネズミの失敗に苦笑いの娘。


「まあ、そういう事もあるよね。私この前

 部屋でサラダ食べた時、シーザードレッシング

 と間違えて乳液かけようとしてたもん」


 同じ白色だけど、ありえないよ。

 自分の事を棚に上げ突っ込むデバネズミ。


「正直、若いうちは色々な失敗してもいい

 と思うんだ。お母さんはあなたの年の頃は

 同棲して親を泣かせたけど、いいと思うの。

 高い受験料だと思って……人生の糧だね」


「受験料?……授業料じゃないの?」

「あっ、間違えた。……受験に失敗……、

 どっちにしても失敗だね。笑えるハハ」


 お互いの失敗談を語るとあっという間。

 気がつくと仕事に行く時間になる。


「お母さん、仕事場まで送ってあげる」

「ありがとう、歯みがきして来るね」


 洗面鏡に映るデバネズミ、違和感。

 シミが濃い。幸薄そうな眉毛。死人の唇。


「ギャー、化粧するの忘れてた。ずっと

 お母さんの顔見て話してたのに、どうして

 教えてくれなかったの!」

「……ブッ、してもしなくても変わらない

 顔だから、気が付かなかったよ。フッ」


 顔の造りが……失敗のデバネズミ。残念。

 

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